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第四章 譲治とタマ子 二(1)_迷路荘の惨劇(迷路庄的惨剧)_横沟正史_日本名家名篇_日语阅读_日语学习网
日期:2024-10-24 10:29  点击:3334

「ああ、君が戸田タマ子君だね」

「はあ」

 譲治のつぎに呼び出された戸田タマ子は、不安そうな額にはや汗をにじませている。

 さっき井川老刑事があばき立てた情事については、必要のないかぎり当分不問に付して

おいてやろうじゃないかという、田原警部補の思いやりのある提言を、一同は了解してい

たが、それでもまだ若い小山刑事は好奇心にみちた視線で、タマ子のからだをなめまわし

ている。

「年齢は……?」

「十八歳でございます」

「君、このうちでは古いの?」

「はい、もうかれこれ半年。……以前はご本宅のほうにいたんですけれど、ここがホテル

になるにつき、こちらのほうへ回されましたので……」

「本宅のほうはどういう縁で……?」

「旦那様……いえ、あの、社長さんのお知り合いのかたのお世話で……」

 タマ子はなぜかそれ以上のことはいいたくないらしかった。どうせヤミ商売の仲間の世

話かなんかであろう。

「ここへ回されたのは旦那様の希望で……?」

「いえ、そうじゃなく、御隠居さまがご本宅へおみえになりまして、あたしを選んでくだ

さいましたので……」

 器量も悪くない。十八歳という若さが、着物のしたから盛りあがっているような娘であ

る。いまどきの娘としては口のききかたもしっているのは、糸女の仕込みのせいだろう

が、語尾が口のうちで消えていくのと、出目金のようにはれぼったい眼をすぼめて、たゆ

とうように相手を見るしぐさに、どこか頼りなげなところがあって、いかにも譲治のよう

な不良に、ひっかかりそうな危険性のある娘だと思われた。

「以前本宅にいたとすると、いままでここにいた速水譲治君と、まえから知り合いだった

のかね」

「いいえ、本宅にいるじぶん、あのひとはまもなくTホテルへ住み込みになりましたし、

あたしは奥勤めでしたから……それはたまには顔を合わせることもございましたけれ

ど……」

「それじゃ、こちらへきてから親しくなったんだね」

「あの……そのことについて譲治さん、なにかいってましたか」

「いやあ、べつに……ただあの騒ぎが起こったとき、君といっしょだったようだからね」

「はあ、譲治さんが乗馬からかえってくると、いつもジョッキを一杯持っていってあげる

ようにとの、御隠居さまのおいいつけでございますから……」

「なんだ、それ、あのばあさんの差し金か」

「はあ。譲治さんは御隠居さまのお気に入りですから……」

「君も御隠居さんのお気に入りなんだろ?」

「さあ、あたしはどうだか……」

 譲治の名前が出ていらい、タマ子はさすがに赤くなってモジモジしている。

「ときに、タマ子君」

 そばから金田一耕助が口をはさんだ。

「本宅にいるとき、君は奥さま付きの女中さんだったのかね」

「とんでもない!」

 タマ子は意外なほど強い言葉で打ち消して、

「あたしは台所付きの女中でした。奥さまはとても身分の高いおかたですから、あたしみ

たいなもん、おそばへ寄れるはずはございません」

「ああ、そう、では、主任さん、どうぞ」

「そう、それじゃ、タマ子君、君にここへ来てもらったのは、一昨日、すなわち金曜日の

夕方のことを聞かせてもらいたいのだが……ほら、一昨日の夕方、真野信也と名乗って片

腕の男がここへきたろう。その男についてききたいんだがね」

「ああ、あのかた……あのかたいったいどうなさいましたんでしょうねえ。御隠居さまは

急に気がかわって、ほかへ移られたんだろうとおっしゃいますけれど……」

「いや、そのことについてね、もっと詳しいことを、聞かせてもらいたいんだが……」

「はあ、でも、そのときはべつに変わったこともございませんで……あれ、ちょうど夕方

の四時半ごろのことでございました。そのまえに御隠居さまから四時半か五時ごろに、旦

那様のご懇意のかたがいらっしゃるはずになっているから、ご丁寧にお扱いするようにと

のご注意がございまして……ですから、そのかたが旦那様のお名刺をもっていらっしゃる

と、すぐ御隠居さまのところへもってまいりましたところ、ダリヤの間へご案内するよう

にとのことでございましたから、仰せつかったとおりにいたしましただけのことなんです

けれど……」

 そこにはなにもしくじりはないはずだと、タマ子の眼は主張している。


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