日语学习网
第五章 フルート問答 一(2)_迷路荘の惨劇(迷路庄的惨剧)_横沟正史_日本名家名篇_日语阅读_日语学习网
日期:2024-10-24 10:29  点击:3335

「それじゃ、金曜日の夕方、ダリヤの間から消えた男のことをご存じなんですね」

「はあ、だって、ゆうべのお夕食のときそれが話題にのぼったんですもの」

「陽子さん」

 と、そばから言葉をかけたのは金田一耕助である。

「だれがそれをいいだしたんです? パパですか」

「いいえ、パパじゃなくお糸さんでした」

「ああ、そう。ゆうべのお夕食のときにはママもいっしょ?」

「はあ」

「けさは?」

「朝はみなさんべつべつですから……」

「ああ、そう、それでは主任さん、どうぞ」

「はあ……それで、お嬢さんはその冒険を決行なすったんですか」

「ほっほっほ、冒険と申し上げたのはお糸さんの眼を盗むことなんですの、あのひと

ちょっとうるそうございますから。あの抜け穴はまえにも抜けたことございますから、べ

つに冒険でもなんでもないんですけれど……」

「それ、何時ごろのことでした。あなたが抜け穴へもぐりこまれたのは……?」

「二時四十分ごろでしたかしら。むこうの出口へ出たのが三時ちょっとすぎでしたか

ら……」

「いったい、その出口というのはどこにあるんですか」

「事件のございました倉庫がございますわね。あの倉庫のすぐ北側に丘が迫っていて断層

をつくっているのにお気づきでしょう。その丘の下に祠ほこらみたいなものがつくってご

ざいますけれど、その祠というのが、むこうの出口のカモフラージでございますのね。そ

の祠のなかへ出るんですの。祠には仁天堂という額がかかってます」

「しかし、それ、二十分もかかる道程なんですか」

「いえ、それほどでもございませんけれど、ふつうの往来を歩くようなわけにはまいりま

せんわねえ。いちど入ってごらんになることをお奨すすめいたします。ちょっと大変な抜

け穴なんですの。ことにきょうは、片腕の男の痕跡はなきやと、鵜うの目鷹たかの目でご

ざいましたから……」

 そこで陽子が意味ありげにわらったので、金田一耕助が気がついて、

「ああ、それで陽子さんはなにかその抜け穴で見つけたんですね」

「ええ、金田一先生、拾ったんですのよ。とってもすばらしい証拠を……」

「な、なにを……?」

 と、田原警部補が乗り出すのを、陽子はあら、ごめんなさいといわぬばかりに首をちぢ

めて、

「それがねえ、主任さま、捕えてみればわが子なりの反対で、どうやらこれ、パパのライ

ターらしいんですのよ」

 と、陽子がスカートのポケットから取り出したのは、洋銀製のがっちりとした、いかに

も慎吾そのひとを思わせるようなライターである。田原警部補はそれを手にとると、いさ

さか緊張の面持ちで、縁なしの眼鏡のおくの眼が光った。

「そうすると、お父さんも最近、その抜け穴をお通りになったわけですね」

「あのひとねえ、金田一先生。片腕の怪人なんか、歯牙にもかけんというような顔をして

ますけれど、こうして金田一先生をお願いしたくらいですから、やっぱり気にしてるんで

すわねえ。それに、あのひときのう午前中にこちらへきたんですの。そのときお糸さんか

らあの話、聞いたにちがいございませんわねえ。それで自分も探検してみたんだと思うん

ですの。あたしどもには申しませんけれどねえ。でも、それ、この家の主人として当然の

行動だとはお思いになりません?」

「それはそうですね。ことに、片腕の男に縁の濃いお客様がいらっしゃる直前とあらば

ね」

「はあ。ですから、これパパに返してあげようと思いながら、あの騒ぎにとりまぎれて、

つい忘れておりましたの」

「なるほど、それじゃ、お嬢さん、まことに恐れ入りますが、このライター、しばらくわ

れわれにお預けねがえませんか」

「ええ、どうぞ。でも、主任さま、そのことパパにいってもよろしいんでしょう。主任さ

まに重大な証拠物件をおさえられたってことを……」

「いや、べつに重大な証拠物件というわけじゃありませんが、それはおっしゃってくだ

すっても結構ですよ」

「あら、そう、それじゃ申しておきましょう。警察のかたに重大証拠物件をおさえられて

しまったから、パパ、身におぼえのあることなら、大至急防衛態勢をととのえなきゃだめ

よって」

 と、陽子は挑ちよう戦せんするような眼つきである。


分享到:

顶部
11/28 21:41