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第五章 フルート問答 二(3)_迷路荘の惨劇(迷路庄的惨剧)_横沟正史_日本名家名篇_日语阅读_日语学习网
日期:2024-10-24 10:29  点击:3335

「はあ、ばあさんが可愛がってくれますし、わたしにとってはたったひとりの姉の終しゆ

う焉えんの地ですからね。古館氏の眼を忍んでちょくちょく……どうせ穀つぶしの汚名に

はなれていましたからね」

「いま、終戦まえとおっしゃったが、終戦後はいかがですか」

「終戦後はこんどで二度目です」

「まえにはいつごろ……」

「はあ、わたし昭和十七年の暮れに兵隊にとられて、二十二年の秋復員してきたんです。

そのとき、ばあさんがまだ生きているというので、ここへ訪ねてきたことがありますが、

それから間もなく篠崎さんの手にうつったので、それっきり……だから、篠崎さんのこん

どの招待は、そういう意味でもうれしかったわけですね」

「失礼ですが、あなた金曜日の晩にはどこにいましたか」

「金曜日の晩……?」

 と、善衛はふしぎそうに眉をひそめて、

「金曜日の晩はもちろん東京にいましたよ」

「それを証明することができますか」

「証明……?」

 と、善衛はおどろいて警部補の顔をみていたが、急に気がついたように唇をほころばせ

て、

「ああ、金曜日の夕方、ここへやってきて消えた、片腕の男のことをいっていらっしゃる

んですね。それならわたしではありません。わたしは民間放送局の専属管絃楽団のメン

バーですから、毎週、金曜日の夜の八時から金曜コンサートを放送いたします。現在のわ

たしにとっては、これがいちばんだいじな仕事ですからね」

 善衛はわらいながら放送局の名前と、一昨日の夜の八時から放送した曲目を話した。

「ああ、そう、それは失礼しました。それでは話をもとへもどして、ゆうべのことを聞か

せてください」

「承知しました」

 と、善衛はちょっと言葉をきって、

「ゆうべいっしょに食事をしたのは、篠崎さんご夫婦にお嬢さん、秘書の奥村君、それか

らわれわれ三人の客と、つごう七人でした。お糸さんは接待係というかっこうでしたが、

食事がおわって法事の話になると、お糸さんがいちばん大事なひとになってくるわけで

す。そういうことにかけては、あのひとなかなか権威者ですからね。さて、そういう打ち

合わせが終わったあとで、片腕の男の話が出たわけです。その話でわたしはダリヤの

間……昔はそんな名前はついていませんでしたが、そこから裏の祠へぬける抜け穴が、ま

だそのまま残ってるってことをしったわけです」

「失礼ですが、あなたはその片腕の男について、そのときどうお考えでしたか」

「主任さん」

 と、善衛はちょっと威儀をただして、

「こんなことが……このような恐ろしい殺人事件が起こるだろうとは、だれも……いや、

少なくともわたしには予測できないことですね。ですからそのときのわたしの感じでは、

冗談か悪戯か、まあ、そんなふうにしか思えなかったんです。したがってたいして気にも

とめずに、八時半ごろ座をはずして当てがわれた自分の部屋へかえって寝たわけです。

ひょっとすると、あした抜け穴を抜けてやろうかなどと考えながら。……ですから……」

「ああ、ちょっと……」

 と、金田一耕助がすばやく言葉をはさんで、

「座をはずして……と、おっしゃいましたが、すると、ほかのひとたちはまだ食堂に残っ

ていたんですか」

「失礼しました。食事がおわって法事の話になったと申し上げましたが、そのとき、すで

に日本座敷へ席をうつしていたんです。それでわたしが中座したというのは、古館氏も天

坊さんもそれぞれ、なにか篠崎さんに話がおありのようでしたから……」

「なるほど。いや、わかりました。それでは、ひとつきょうの午後のことをお話し願えま

せんか」

「承知しました」

 と、善衛は眉毛ひと筋うごかさず、相変わらず淡々と語りつづけるのである。


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