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第六章 人間文化財 三(1)_迷路荘の惨劇(迷路庄的惨剧)_横沟正史_日本名家名篇_日语阅读_日语学习网
日期:2024-10-24 10:29  点击:3334

 お糸さんは猿がとまり木にとまるように、椅子の上にちょこなんと座ると、巾着のよう

な口をすぼめて、にこにこと一同を見まわしながら、

「さあ、さあ、わたしになにかたずねることがおありなさるそうなが、なんなりと……年

寄りじゃというて遠慮はいらんぞな。わたしは耳もよう聞こえるし、眼も見えるでな」

 人間もこれくらい生きのびると妖よう怪かいじみてくる。一同はちょっと毒気を抜かれ

たかたちで、この人間文化財のような老婆を見ていたが、やがて警部補が身をのりだし、

「ばあさん、あんたいつまでも元気でいいな。いったいことしいくつになる?」

 世の中まったく民主的になったものである。戦前こんな口のききようをしようものな

ら、たちまち、この御後室様から一喝くらったことだろう。

 お糸さんのほうでも心得たもので、

「年齢のことは聞かんもんじゃ。これでも百までにはまだあいだがあるぞや。ほっほっ

ほ。金田一先生、なんでも聞いてくださいよ」

 と、いたって民主的である。

「ああ、そう、それじゃ主任さん、さっそくおはじめになったら……」

「承知しました。それじゃ、お糸さん、まずだいいちに聞きたいのは金曜日の夕方のこと

だが、片腕の男がやってきて、消えたとか……」

「そうそう、金田一先生」

 と、お糸さんは椅子の上で、くるりと金田一耕助のほうへ向き直り、

「そのことについて、タマ子にお聞きなさったでしょうな」

「はあ」

「やっぱりほんとうだったでしょうがな」

「はあ、ほんとうでした」

「いえねえ、みなさん、タマ子がひとこと片腕の男じゃというてくれたら、わたしが自分

で出たんですけれどなあ。それとわかったときはもうあとの祭りでございましてねえ」

「しかし、お糸さん、ダリヤの間に抜け穴があるということは、あんたもしってのはずで

すな。それだのに、そんな部屋へなんだって、身許不詳の男を案内するように命令しとい

たんです」

「お言葉ですけれどなあ、主任さん。そのときわたしはそのひとを、身許不詳の男とは思

いませんでしたぞな。げんにその朝旦那様からのお電話があり、また旦那様の名刺を持っ

てきたんですけんな」

「それにしても抜け穴のある部屋へ通すとは……」

「それだって旦那様の命令でございますからね。いえ、そう思いこんでいたんでござんす

ぞな」

「なるほど」

 と、金田一耕助が横合いから、

「それでお糸さんがご挨拶にいったとき、ダリヤの間には中から鍵が掛かっていたんです

ね」

「いいえ、鍵は中から掛けたか外から掛けたかわかりませんぞな。どちらからでも掛かる

ようになっておりますけんな」

「でも、部屋の中に鍵がおいてあったそうじゃありませんか」

「ああ、そうそう」

 と、お糸さんはいくらかあわてたように、

「ほんとうに。それだからこそ、抜け穴を通って逃げたんじゃないかという疑いが出たん

でしたわねえ。年と齢しをとると、つい、ぼけてしもうて……」

 そういうお糸さんのとぼけた顔を、金田一耕助はまじまじと見ながら、

「お糸さんはそのあとで、抜け穴を通ってごらんになりましたか」

「とんでもない。元気というてもこの年齢ですからねえ。ふつうの道でも危なっかしいの

に、抜け穴なんかとってもとっても。……」


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