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第十四章  密室を開く 一(2)
日期:2023-12-29 16:15  点击:249

「奥村さん、あたしこの家でいまにもっともっと重大なことが起こるんじゃないかと思

う。いままで起こったことよりも、もっともっと恐ろしいことが……あたしはそれを防が

なきゃならない」

 奥村が執しつ拗ようにその重大なることについて追究したが、陽子は頑がんとして口を

わらなかったのみならず、昼食のあと、

「あたしひとりでじっくり考えてみたいことがあるの。しばらくそっとしておいてね」

 と、自分の部屋へ閉じこもってしまった。

 二時ジャスト、予定どおり警官隊がふた手にわかれて、ダリヤの間と鬼の岩屋から潜入

していったということを確かめてから、そのことを報告かたがた奥村は陽子の部屋のドア

をたたいた。返事はなかった。

 そのときは奥村もあきらめて、ひとりでビリヤード・ルームへいって玉を突いていた

が、やはり気になるので二時半ごろ陽子の部屋へいってドアをたたいた。いくらたたいて

も返事がないので、二、三度大声で陽子の名前を呼んでみた。それにも応答がなかったの

で、把とつ手てに手をかけてみると鍵がかかっていなかった。

 奥村は陽子の怒りをかうのも覚悟のうえで、思いきってドアを開いてなかへはいってみ

たが、陽子の姿はどこにもなかった。奥村は部屋をとび出すと、この広大な名琅荘のすみ

からすみまで捜してみたが、陽子のすがたはどこにも見当たらなかった。

 奥村はひょっとすると陽子もまた、地下の抜け穴へもぐり込んだのではないかと、ダリ

ヤの間のまえまでいってみた。ダリヤの間のドアのまえには警官がひとり立っていたが、

陽子のことはしらぬという。それらしいお嬢さんの姿も見なかったという返事である。

 奥村はあの抜け穴が仁天堂へ抜けていることをしっている。しかし、あちらのほうは地

下道の内部からしか開かなくて、仁天堂の側からでは入れぬ仕組みになっていることを奥

村はしっている。奥村はしかし気になるので、念のためにそっちのほうへいってみると、

金剛、力士ふたつの像の背後の羽目板が破られており、その割れ目から上半身はい出した

陽子が、そのままの姿勢で倒れているのを発見したのである。

 と、いうのが奥村の申し立てだったが、そのおわりのほうの供述がやや曖あい昧まいな

ところへ、あの勇猛果敢な久保田刑事に突っこまれて、たちまちしどろもどろになってし

まった。

「噓だ! この男は噓をついている!」

「噓?」

 田原警部補が鋭くいってふりかえると、闘志満々の久保田刑事は、金太郎さんみたいな

顔を紅潮させて、

「そうですとも、ぼくがあの回り舞台のこちらがわまで駆けつけたとき、あのお嬢さんま

だ意識があったんです。この男にむかってなにかひとことふたこといって、それきり昏こ

ん倒とうしたんです。低いきれぎれな声だったので、ぼくにはなにをいったのかわかりま

せんでしたが、この男にはわかったはずです。そのときぼくが君はだれかと聞くと、ここ

のご主人の秘書だというので、ぼくも安心してあとをまかせて、主任さんを呼びにいった

んです」

 久保田刑事の糾弾に容赦はなかった。一同の視線を全身にあびて、奥村秘書の顔には

ビッショリ脂汗が吹き出している。

「奥村君」

 田原警部補はきびしい眼をむけて、

「陽子さんはいったいなにをいったんですか。君はこの事件がどんなものかしっているは

ずだ。さっき君は譲治に抱かれたタマ子の死体を見たはずでしょう。陽子さんはタマ子が

鼠に食い荒らされていた、おなじ抜け穴から出てきたんですぞ。陽子さんはいったい君に

なにをいったんです」

 あの凄惨なタマ子の死体を思い出したのか、奥村は全身をもってふるえあがったが、そ

れでもなおかつ躊躇しているのをみて、金田一耕助がそばからおだやかに言葉をかけた。

「奥村君、ここはひとつ正直に答えたらどうですか。君はだれかに迷惑がかかりゃしない

かと、それをおそれて躊躇しているらしいが、そういうことはこちらの判断にまかせてく

ださい。陽子さんはなんとおっしゃったんですか」

 そのとき金田一耕助はまだよれよれのセルによれよれの袴をはいていた。セルも袴も泥

だらけになっており、顔や手足も泥まみれであった。しかしこのモジャモジャ頭で、しか

もいくらかどもるくせのあるその風ふう采さいは、妙にあいてに親近感をもたせ、人懐っ

こいその言葉はかえって説得力をもっているらしく、

「はあ、ぼくにも陽子さんのいった言葉の意味がよくわからないんですが……」

 奥村もどうやら打ち明ける気になったようである。


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