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第十四章  密室を開く 二(1)
日期:2023-12-29 16:16  点击:248

「金田一さん、いやさ、金田一先生、これはいったいどうしたというんですい。あんたの

眼のまえでつぎからつぎへと事件が起こってるんですぜ。それにもかかわらずあんたただ

ウロチョロするばかりで、なんにもしようたあしねえじゃありませんか。あんたそれでも

名探偵ですかい」

「あっはっは、これはご挨拶ですね。わたしゃべつにどなたにも、吾わが輩はいは名探偵

でござあいなんて、見み得えを切ったおぼえはないつもりなんですがね」

「ヘン、口は調法なもんだ。あんたがそもそもここへやってきたなあ、あのヤミ屋のボス

の招待でしょう」

「はあ、それが……」

「あの男なんだってあんたを呼びよせたんですい。あんたが名探偵でもなんでもなく、そ

の反対にヘボだから呼んだんじゃねえんですか」

「あっはっは、これはますますご挨拶ですが、それはどういう意味ですか」

「正直いってあんたわれわれの目ざわりですぜ。あんたもっともらしいことはいうが、た

だウロチョロするばかりで、われわれの捜査の妨害ばかりやってるじゃありませんか」

「井川君。控えたまえ」

「いや、いいですよ、いいですよ。田原さん。つまりこちらのおっしゃりたいのは、篠崎

さんはわたしがヘボであることをご存じだったがゆえに呼びよせた。と、いうことはわた

しをウロチョロさせることによって、捜査を混乱におとしいれようという魂胆であった

と、こういうことなんですね」

「そうとしか思えねえじゃありませんか。おまはんがモジャモジャ頭をかきまわし、へん

てこな袴の裾をヘラヘラさせているあいだに、つぎからつぎへとおっかないことが起こ

りゃあがる。あのヤミ屋のボスはそれを承知のうえで……」

 八つ当たりとはまさにこのことである。無理はない。この老刑事はおのれをもってこの

警察の古狸をもって任じている。あるいはヌシくらいにウヌボレているのかもしれぬ。そ

こへ持ちあがったのが古館辰人の殺人事件。

 ようし、この機会に昭和五年の事件も一挙解決とハリキッているところへ、矢継ぎばや

に起こったふたつの殺人事件とひとつの傷害事件、まったく応接にいとまあらずとはこの

ことである。そこへもってきてこのモジャモジャ頭のさえない男が、袴の裾をヘラヘラさ

せながら、ウロチョロするのだから、老いの一徹にかてて加えて、捻挫の痛みも手伝って

ついにアタマにきたらしい。

 時刻はまさに深夜の十二時。場所は名琅荘のフロントである。そこに鼎かなえになって

座をしめているのは田原警部補と井川刑事、それからモジャモジャ男の金田一耕助。

 十月ももう下旬になると裾野の夜はぐっと冷えこむ。しかしそこはお糸さんの心使い

で、暖房がよくいきとどいているので室内の気温は快適だが、さすがに三人とも疲労困こ

ん憊ぱいの色がふかかった。三人ともゆうべはほとんど一睡もしていないところへ、きょ

うのこのうちつづく惨事である。ことに井川刑事はおトシのせいで疲労の色がだれよりも

顕著だったが、そこへもってきてこの老刑事の神経に決定的な打撃をあたえたのは、つい

いましがたはいってきた森本医師の報告である。

 タマ子の絞殺されたのは、天坊さんが溺死したのとほとんど同時刻であろうと。

 ああ、タマ子!

 あのむごたらしいタマ子の死体は、この一徹な老刑事の自責の念をつよくゆさぶり、つ

い愚痴まじりの憎まれぐちになるのである。


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06/29 17:47