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第十四章  密室を開く 二(2)
日期:2023-12-29 16:17  点击:244

 しかし、金田一耕助はそのとき少しも騒がず、

「なるほど、そうすると篠崎さんはこういう事件が、矢継ぎばやに起こることをあらかじ

め想定して、このヘラヘラ男を呼びよせた。そして、事件が起こるたびにヘラヘラ男をウ

ロチョロさせ、それによってあなたがたの捜査を混乱させようと計画なすった……と、こ

うおっしゃるんですね」

「そうとしか思えねえじゃありませんか。あの男ならこの三つの殺人事件にぜんぶ動機を

もちあわせている。まず古館辰人殺しだが、あの男にとっちゃ古館辰人とは憎さも憎き男

だったにちがいねえかんな」

「と、おっしゃると……?」

「だって、自分のほれてる女をまえに女房にしてた男ですからな。しかも、いまでもあの

とおりの好男子である。ひょっとするとその後も倭文子という女と関係がつづいていたの

かもしれねえ」

「あっ、なあるほど」

 と、金田一耕助は厳粛な顔をして、

「しかるによって嫉しつ妬とにたえかね、おのれ憎っくき姦かん夫ぷめとぶっ殺したと

おっしゃるんですね」

「だってあの抜き身はあの男のものだし、あの男にゃアリバイがねえ」

「アリバイのない人物はほかにもおおぜいいるんですが、それはそれとして天坊さん殺し

の動機は……?」

「しれてるじゃありませんか。あのビリケンさんは大将の弱身をしっていたんだ。ひょっ

とすると、辰人と倭文子がマオトコしてることもしってたかもしれねえ」

「なるほど、篠崎さんに古館さん殺しの動機があることをしっていた。そこでこいつ生か

しておいちゃ後日のさまたげと、洗面台のなかに首をつっこんで溺死させた……」

「それよ。あれはそうとう大力の人間でねえとやれねえこってさ。そこをタマ子に見られ

たもんだから、これまたありあうバンドでぐっと絞め……」

「そういえばタマ子をさいごに目撃したのは篠崎さんでしたね」

「そうよ。タマ子はその足でボスのあとを尾行したにちがいねえ。そこでいちぶしじゅう

を見られたもんだから、絞め殺しておいて抜け穴の入り口からほうりこんでおいたんだ。

それをあとから鼠の穴へ引きずっていきゃあがった」

「お言葉ですがね、刑事さん、いまあなたの指摘なすったとおり、篠崎さんは大力のひと

ですよ。なぜタマ子を引きずっていったんです。なぜ抱いていかなかったんです」

 井川刑事の顔にふいと嘲笑の影がうかんだ。邪悪にみちた影である。

「主任さん、これでこの男がいかにヘボだかおわかりでしょうが。おい、金田一先生、い

やさ、金田一さん、抜け穴のなかはまっ暗なんですぜ。両手でタマ子の死体を抱いてちゃ

懐中電灯はどうするんだよう。それともおまはんのパトロンは猫みてえに、暗闇のなかで

も眼が見えるというんですかい」

 金田一耕助が啞然としたのはまだよかったが、がっくり顎あごがおちたのはだらしがな

い。思わずモジャモジャ頭に手をやりかけたが、井川刑事の凶暴な眼つきに気がつくと、

あわててその手を引っ込めて、

「いや、恐れ入りました。なるほどこれじゃ名探偵の名を返上しなければなりませんな。

じゃ刑事さんにもうひとつご質問をお許しねがうならば、あの密室の謎はどうお解きにな

りますな。ドアには鍵がかかっていて、その鍵は部屋のなかにあった。しかも窓という窓

にはなかからぜんぶ掛け金がかかってましたね。そういう部屋へ篠崎さんはどうして出た

り入ったりできたんですか」

「そんなことあ造作ねえ」

 井川刑事はせせら笑った。いよいよ邪悪にみちたせせら笑いである。


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06/27 00:08