日语学习网
第十四章  密室を開く 二(6)
日期:2023-12-29 16:19  点击:262

 金田一耕助が外から操作しているのであろう、問題の鍵がななめに張られた糸をつたっ

て滑降してきたかと思うと、やがてカタリと音を立て、お盆に突っ立てられた針を中心と

して、ぶじに身をよこたえるのを見たとき、ふたりの捜査員の唇からいっせいにふかいた

め息がもれた。

 つぎに金田一耕助が強く外からひいたのであろう、針はプッツリ鎌倉彫りの盆からはな

れて、糸ごと回転窓の外へ消えていった。盆のうえには鍵だけがよこたわっている。

 田原警部補も井川刑事もふかい感動のために身動きもできなかった。呼い吸きをのんで

銀色の鍵を見つめている。

 なるほどさっき金田一耕助も指摘したとおり、子供だましのようなトリックだったかも

しれないが、どんな奇抜な手品でも、種を明かすとこのとおりたあいないものなのであ

る。しかし、とっさの場合……おそらくとっさの場合だったろう、こういうことを思いつ

いた犯人の狡こう知ちというか、奸かん知ちに思いいたると、やはり慄然たらざるをえな

いのである。

 やがて廊下から呼ぶ金田一耕助の声に、あわてて控えの鍵でドアをひらいた刑事の態度

は、いまや敬虔そのものである。

「金田一先生、お見事でした」

 それに対して金田一耕助が大テレにテレてはにかんでいるのはいつものとおりである。

まるで自分がこのトリックの考案者であるかのごとくに。

 田原警部補も直立不動の姿勢で、

「金田一先生、わかりました。このブロンズ像はおもしの役目を果たしているんですね。

針を抜くために糸を強く引いたとき、この鎌倉彫りの盆がマントルピースから落っこちや

しないかと、犯人はそれをおそれたんですね」

「おっしゃるとおりだと思います。犯人はこれ見よがしに鍵をマントルピースのうえにお

いときたかったのでしょうね。おそらく鍵の頭が輪になっているところから思いついたん

でしょうが、こういうトリックを弄すると、銭形平次の子孫でなくても、いとも簡単に鍵

を部屋のなかへ返しておくことができたわけです」

「いや、先生、恐れ入りました」

「いや、いや、それからねえ、主任さん、犯人がもうひとつおそれたであろうと思われる

のは、糸が途中で切れやあしないかということです。しかし、いまごらんになったとお

り、木綿糸でもふたえにしとくと大丈夫でしたね。ましてやフランス刺繡の糸なら絶対大

丈夫だという確信が、犯人にあったのではないでしょうか」

 あっという鋭い叫びがほとんど同時に、ふたりの捜査員の口からほとばしった。

「先生、それじゃ犯人はあの……」

「いや、いや、いや。そうきめてかかるのは早計でしょう。フランス刺繡の糸と針は、ほ

かの人物でも持ちだせたでしょうからね」

 金田一耕助は悩ましげな眼をして、

「しかし、どちらにしても、犯人は天坊さんとよほど親しい人間だったにちがいありませ

ん。お糸さんの話によると天坊さんはひどく神経質になっていて、いちいちドアに鍵をか

けていたという。それをみずから開いてなかへ招じ入れたんですからね」

 恐ろしい沈黙が部屋のなかへ落ちこんできた。

 そのとき天坊さんは入浴をおわって、鏡のまえで髭ひげをそりおわったところなのだ。

パンツくらいははいていただろうが、ほとんど裸だったにちがいない。そのときドアを

ノックする音がきこえたので、天坊さんはこの居間へ出てきたにちがいない。そして相手

をだれとたしかめておいて、鍵をまわしてドアをひらき相手を招じいれたのだろう。

 哀れな天坊さんは相手の恐ろしい決意に気がつかなかったにちがいない。客をこの居間

へ待たせておいて天坊さんは、洗面所へひきかえし、洗面台に身をかがめて顔を洗おうと

していたのだろう。その姿勢が犯人を誘惑したのにちがいない。千載一遇の好機とばか

り、犯人は猫のように音もなく天坊さんの背後に忍びよった。


分享到:

顶部
06/02 12:56