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第十六章  殺人リハーサル 一(1)
日期:2023-12-29 16:25  点击:264

第十六章  殺人リハーサル

    一

「譲治君、これで君も安心したろう。君の親愛なる親分はシロだった。いや、シロであっ

たのみならず、あやうく犯人に血祭りにあげられようとなすった。君とお糸さんというひ

とがいなかったら、犯人は目的をとげていたかもしれない。で、なにもかも打ち明けても

らえるだろうね」

「先生、それで犯人というのは……?」

「もちろんあの女さ。鼠にかみ殺されたあの女さ」

 鼠にかみ殺されたあの女……と、口にするとき、金田一耕助の口調には、きたないもの

でも吐き捨てるような嫌けん悪おのひびきがきびしかった。それは譲治のみならず、そこ

に居合わせた田原警部補や井川刑事、速記に当たっている小山刑事たちさえ、おもわず顔

を見直さずにいられないほど、嫌悪と侮ぶ蔑べつにみちていた。

 時刻はすべてが終わった火曜日の夜の八時ごろ、場所は名琅荘のフロント、登場人物は

日曜日の夜の第一回訊き取りとすっかりおなじ顔触れである。小山刑事は東京での任務を

おえて、きょうの午後かえってきたのである。

「なあ、譲治君、タマちゃんは気の毒だった。しかし、タマちゃんが鼠にかじられたと

き、あの娘はもう死んでいたんだ。ところがタマちゃんをそういう目にあわせたあの女

は、生きながらにして鼠にかみ殺されたんだ。君もこれで満足するんだね」

「先生、ありがとうございます」

 譲治は悄しよう然ぜんと肩を落として、タマ子の死体を発見したときのあの凶暴さはも

うなかった。

「そう、それでは率直に打ち明けてくれるね。金曜日の夕方ダリヤの間から消えた、片腕

の男は君だったんだろうね」

 小山刑事は驚いたように譲治の顔を見直したが、相手はすなおにうなずいて、

「先生、すみませんでした」

「いや、ぼくに謝ることはないが、それお糸さんの差し金だろうね」

「はい」

「お糸さんはなんといって君をけしかけたの」

「あしたあいつがやってくる。ひとつ脅かしてやるんだって。御隠居さんはすごくあの男

を憎んでたんです」

「それでタマちゃんは君に気がつかなかったんだね」

「あいつ近ちか眼めだもんだから。ぼくひとつにはタマッペをからかってやるのが、おも

しろかったので引き受けたんです」

「ついでに聞くが、近ごろこのあたりに現れる、片腕の男というのも君だったんだろう

ね」

「すみません、ぼくあの御隠居さんにヨワいんです」

「なぜ? タマちゃんのことがあるから?」

「ううん、そのまえからです。あのひとぼくが混血児の戦災孤児だということをしってい

ながら、そんなこと問題じゃないって、とてもぼくを可愛がってくれるんです」

 一同はおもわず顔を見合わせた。こういう種類の人間は、つねに人の情けに飢えている

のだろう。

「なるほど、それではもうひとつ聞くが、日曜日の晩、われわれがダリヤの間から抜け穴

へ潜り込んだとき、途中で待ち伏せしていた男も君だったんだね」

「はい」

「なぜあんなまねをしたの」

「それは……それは……」

 譲治は焦燥の色をうかべ、

「みんなおやじさんを疑っていると思ったからです」

「そればかりじゃないだろう。君はあいつとあの女とのあいだに、その後も関係がつづい

ていることを知ってたんじゃないの」

「せ、先生、先生もそのことを知ってたんですかあ」

「まあね。しかし君はどうして知ってたの」

「タマ子に聞いたんです」

 一同はハッと顔を見合わせた。


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06/27 00:04