日语学习网
第十六章  殺人リハーサル 二(2)_迷路荘の惨劇(迷路庄的惨剧)_横沟正史_日本名家名篇_日语阅读_日语学习网
日期:2024-10-24 10:29  点击:3336

「そういうこってすね」

「その予行演習の現場を、柳町さんに見られたってことですか」

 田原警部補も熱心な聴講生のひとりである。

「そうです、そうです。古館さんとしては、名琅荘から遠くはなれた倉庫のなか、だれも

やってくるはずがないとタカをくくっていたんでしょうが、あにはからんや、ついちかく

に抜け穴の出口の仁天堂があった。それを見落としていたのが一いち期ごの不覚、そこを

抜けてきた柳町さんは、倉庫のなかでひとの気配がするのでのぞきにこられた。これは古

館氏としては致命的な障害ですね」

「それはそうです、そうです。リハーサルの現場を見られちゃ、本番を演出することがで

きない。リハーサルから本番の意図が察知されたかもしれませんしね」

「柳町さんがそのときとっさに、そこまで洞察されたかどうか疑問ですが、ふたりは以前

から深しん讐しゆう綿々の間柄だし、また柳町さんは古館氏の性格をよく知っているはず

です。陰険で狡こう猾かつなエゴイストであるということを。だからまた、好からぬこと

を企んでいるなということくらいはわかったでしょう。いっぽう古館氏としては致命的な

場面を見られてしまった。しかも、よりによって仇敵柳町さんに。おそらく古館氏のほう

が逆上して、仕込み杖をふるって襲いかかったのでしょう。そこでふたりのあいだで深刻

な闘争が起こったが、悲しいかな、古館氏は左腕が自由にならなかった。結局柳町さんに

凶器をうばわれ、あべこべに後頭部をぶん殴られて昏倒した……」

「柳町善衛としちゃ積年の怨うらみがこって爆発したでしょうからなあ」

 と、井川刑事も慨嘆するように、

「つい力が入ったんでしょうな。それにいま金田一先生がおっしゃったように、柳町さん

にはとっさに辰人のやつの計画が、わかったかどうかは疑問としても、佞ねい奸かん邪知

のその性格はよくしっている。なにかまた好からぬことを企んでいるにちがいないと、そ

こでぐっとひと絞め、ありあうロープで絞め殺した……」

「柳町さんとしては疫えき癘れいみたいなその男を、この世から葬り去ろうとしたんで

しょうね。個人的遺恨もあったでしょうし、毒食わば皿というような棄すて鉢ばちな気持

ちも手伝ったのでしょうねえ」

 だが、そういう金田一耕助の声は悩ましそうで、かつまたひどく悲しそうであった。

「そこへ仁天堂のほうから、ひとの気配がきこえてきたというわけですか」

「おそらく陽子さんと奥村君は、キャッキャッと笑いさんざめいていたことでしょうから

ね」

「そこで大急ぎで死体をガラクタ道具のかげにかくし、砂袋をおろして仕込み杖とともに

ロープの束のしたに押し込んでおいて、自分はここをとび出し、なにくわぬ顔で裏門の外

でふたりに出会って、またここへふたりを引っ張ってきたというのは、ここになにもない

ということを、ふたりに見せておきたかったんでしょうな」

「井川さんのおっしゃるとおりだと思います」

「そのときパイプを落としていったのは、あとからそれを探しにくる口実を作っておいた

んですね」

「そうだ、それにちがいねえ。そうしておいていったん本館へとってかえしたが、ほかの

ふたりがシャワーを使っているあいだに、ひそかにここへ引き返してきて、死体を馬車の

うえにおいたんだな。それでアリバイが完全に出来上がったというわけか」

「金田一先生、そのとき柳町さんはあの滑車を使ったんじゃないでしょうかねえ」

「そ、そうですよ、そうですよ」

 金田一耕助はいかにもうれしそうに、頭のうえの雀の巣をかきまわしながら、

「もし柳町さんがそうなすったとしたら、そのじぶんにはもう古館氏があの砂袋をつかっ

て、なんの予行演習をしていたか、わかっていたんじゃないですか。したがってあの滑車

をつかって古館氏を吊るし上げた人物は、なんの良心の呵か責しやくもなく実行できたと

思うんです」

「しかし、その柳町善衛がゆうべまた、なんだってあの地下道へ潜りこんだんです」

 これは井川刑事のもっともな疑問である。


分享到:

顶部
11/28 14:37