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大団円 二(3)_迷路荘の惨劇(迷路庄的惨剧)_横沟正史_日本名家名篇_日语阅读_日语学习网
日期:2024-10-24 10:29  点击:3337

「いや、こちらの警察のひとたちはその告白で満足したようです。しかし、わたしがそれ

に満足できない、……その告白では腑に落ちないというのは……」

「腑に落ちないとおっしゃるのは……?」

「わたしはあのとき風呂場のなかで、ドップラーの『ハンガリヤ田園幻想曲』を二度きい

ているんですよ」

「と、おっしゃると………?」

 そこで金田一耕助はあの日こちらへ着くと、すぐ浴場へ案内され、そこでフルートの音

をきいたいきさつを語ってきかせると、

「そのときわたしのところへ聞こえてきたフルートの曲というのが、『ハンガリヤ田園幻

想曲』だったわけです。しかし、それは完全な吹奏ではなく、小手調べというんですか、

おなじところをいきつもどりつ吹奏していたんです。それからちょっと間をおいて、完全

な吹奏がはじまったわけです。ところがあとで柳町さんに聞くと、『ハンガリヤ田園幻想

曲』を完全に吹奏すると、十一、二分はかかるということでした。と、するとわたしの聞

いた最初のそれは、少なくとも数分はかかっていたと思うんです」

 慎吾の瞳がふいに大きく見開かれた。かれにもようやく金田一耕助のいわんとするとこ

ろがのみこめてきたらしい。

「金田一先生!」

 大きく息をはずませて、

「先生のおっしゃりたいのは、その間、柳町さんは倉庫へいくひまはなかったと……?」

「そうです、そうです。なるほど柳町さんはシャワーを使わず、顔と手を洗っただけで娯

楽室へ出て来られたのかもしれない。しかし、柳町さんは倉庫のほうへはいかれずに、娯

楽室にいて『ハンガリヤ田園幻想曲』の小手調べをしていられたんです。少なくとも数分

間にわたって……」

「じゃ、この事件には共犯者がある……と、おっしゃりたいんですか」

 金田一耕助は悩ましげな眼をして、しばらく無言のままモジャモジャ頭をかきまわして

いたが、やがてお糸さんのほうにむきなおると、

「お糸さん、ここでひとつ泥を吐いてください」

「泥を吐けとおっしゃいますと……?」

「わたしの質問に正直に答えていただきたいんですが」

「さいなあ、わたしゃいつでも正直にお答えしておりますぞな。わたしゃうまれつき噓を

つくのが大きらいでございますけんなあ」

「それはどうだか。あっはっは、まあ、いいです、いいです。それじゃおたずねいたしま

すが、あの日、古館氏が殺害された日ですね。あの午後あなたはいつものとおり昼寝をし

ておられた。ところがそこへ陽子さんと奥村君が二度まで偵察にいかれたといいますが、

お糸さんはそれに気がつかなかったんですか」

「ああ、そのこと……」

 お糸さんは口をすぼめて、童女のようにあどけなく笑うと、

「それにお答えするまえに、いちおう金田一先生に申し上げておきますけれどな、わたし

はなにせ種人閣下のお躾しつけがきびしかったもんですけんなあ、おたずねのないことは

申し上げない性さが、必要のないことは語らない癖が身についておりますんぞな。で、い

まのご質問でございますけれど、そうしておたずねいただくと、いつでも正直にお答えい

たしましたものを。ええ、ええ、年寄りというものは目ざといものですけんなあ。おふた

りが二度もようすを見に来られたもんじゃけん、わたしゃちゃんと気がついておりました

ぞな」

「それで、お糸さんはどうしました」

「どうもこうもありゃしません。さてはあの悪戯いたずら小僧みたいな陽子お嬢さま、奥

村さんを仲間にかたらい、あの抜け穴へもぐり込むつもりじゃなと気がついたもんですけ

んな、ひとつ出て来たところをとっつかまえてあげましょうと、仁天堂のほうで待ち伏せ

するつもりで、えっちらおっちら、そっちのほうへまわったんですぞな」

「ああっ!」


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