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大団円 二(4)_迷路荘の惨劇(迷路庄的惨剧)_横沟正史_日本名家名篇_日语阅读_日语学习网
日期:2024-10-24 10:29  点击:3337

 慎吾の声は腸はらわたの底からほとばしり出たもののようである。まるで化け物でも見

るような眼をして、お糸さんを凝み視つめているが、お糸さんはケロリとして、

「それそれ、旦那様、糸はさっきも申し上げたではございませんか。おたずねさえあれば

何事でも、正直に申し上げましたものをと。いままでどなたもそのことを、たずねてくだ

さらなんだもんですけんなあ」

「わかった、わかった、お糸さん、それでそのときあなたは倉庫のなかをのぞきませんで

したか。いや、のぞいたんでしょうねえ」

「そら、のぞきましたぞな、金田一先生、だってえらい声がしたもんですけんなあ。いっ

たい、だれがいまごろこんなところでと、えっちらおっちらいってみたところが……」

「どんな状態だったんです、そのとき倉庫のなかは……?」

「まず砂袋が宙にぶらさがってましたえなあ。それから辰人さんが床にぶっ倒れておいで

なさいまして、そのそばに柳町さんが旦那様の仕込み杖を逆手に握って、茫然として突っ

立っておいでなさいましたわなあ」

「それで、お糸さんはどうなすったんです」

「どうって、手短かに柳町さんからお話をきいて、すぐに辰人さんの企みがわかりました

ぞな。わたしは年をとってもおツムの回転のはやいほうですし、また辰人さんの気性もよ

うく存じておりますけんなあ。その辰人さんが片腕を縛って、旦那様とほぼおなじ目方の

砂袋を、滑車で宙に吊り上げていたということを聞いただけで、わたしにはなにもかもわ

かりましたぞな。怒り心頭に発するというのは、あのときのわたしの気持ちをいうのでご

ざんしょうなあ。と、同時に二十年まえにここで非業の最期をとげられた、加奈子奥様や

尾形静馬さんの敵を討つのは、このときしかないと思うたんですぞな。しかし、それには

柳町さんをまきぞえにしてはならぬと考えました。それにはちょうどさいわい、まもなく

仁天堂から出て来られる陽子お嬢さまと奥村さんを、うまく利用させてもらいましょうと

いうわけで、まごまごしている柳町さんを叱りつけ、まず辰人さんの体……いっときます

けれど、そのとき辰人さんはまだ死んではおいでんさらなんだのじゃ、ただ後ろ頭をぶん

殴られて、気を失うておいでんさっただけじゃったんだが、それをガラクタ道具のうしろ

にかくさせ、砂袋をおろして仕込み杖といっしょにロープの束の下にかくさせ、そうして

おいて、柳町さんを倉庫の外に追い出してしもうたんですぞな。あのとき柳町さんもまさ

かこのわたしが、辰人さんを殺そうと考えているなどとは、ゆめにもご存じなかったで

しょうなあ」

 糸女はあどけない顔に無邪気な微笑をうかべながら、世にも恐ろしいことをいうのであ

る。その語りくちは淡々としているが、それだけに覚悟のほども忍ばれて、慎吾の眼には

ふかい危き惧ぐの色がかぎろうていた。

「なるほど、それであなたも物陰に身をひそませているところへ、柳町さんが陽子さんと

奥村君をつれてきたんですね」

「そうそう、みんなわたしがそうするように、柳町さんを説きふせてやったことです」

「そこへ譲治君が馬車をひいてかえってきたんですね」

「そうそう、柳町さんは馬車のことはご存じなかったでしょうが、わたしの計算にはちゃ

んと入っとりましたけんな。あそこに死体なんかなかったという証人は、多ければ多いに

越したことはございませんけんなあ」

「それで譲治君が馬を頸くび木きからはずして立ち去るのを待って、あなたが行動を開始

されたんですね」

「そうですぞな、金田一先生」

 お糸さんはニコニコしながら、

「なにせあの男がわたしみたいな年寄りにでも、滑車を使えば死体を宙にぶらさげるなん

てこと、いと簡単にできるちゅうことを、砂袋をつかって教えてくれたんですけんなあ。

わたしゃ教えられたとおりやったまでのこと。滑車からぶらさがっているロープの輪を、

ガラクタ道具のかげまで引っ張っていって、あの男の咽の喉ど首くびにひっかけてやりま

したぞな。しっかりと、体がずり落ちぬようにな。いっときますが、そのときあの男はま

だ死んではおりませなんだぞな。呼い吸きもかようておりましたし、からだに温ぬくもり

も残っておりましたけんな。それからわたしは物陰から出てきて、滑車をまわしてやりま

した。二十年来の怨みをこめて……加奈子奥様と尾形静馬さんの怨みをこめて、わたしは

滑車をまわしましたぞな。ええ、ええ、腕も折れよと回しに、回してやりましたぞな」

 さすがにその声には烈々たる気き魄はくがみなぎり、その瞳から殺気がほとばしるかと

思われた。しかし、その語りくちはあいかわらず淡々としたものである。


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