五穀の誕生
スサノヲによって殺された女神から誕生した五穀
アマテラスの復活に成功した八百万の神々だが、許しがたいのは元凶のスサノヲであ
る。スサノヲが作った畔を破壊し、溝を埋めるといった農耕を妨害する行為は、神道でも
最大のタブーとされ、これらの罪を犯した者は、穢けがれを受ける。そこで神々は協議の
うえ、スサノヲに多くの贖しよく罪ざい品ひんを科し、髭ひげや爪を切り、高天原より追
い払った。これはどちらも罪や穢れを取り除くための祓いの儀式である。
高天原を降ったスサノヲは、その道すがらオホゲツヒメに食物を求めた。オホゲツヒメ
は自分の鼻や口、尻などから食物を出してご馳走を差し出す。ところがそれを見たスサノ
ヲは、「穢れた食物を出したな」と激怒し、オホゲツヒメを殺してしまう。すると、その
亡骸から五ご穀こくが生まれた。頭から蚕かいこが、ふたつの目から稲の種が、ふたつの
耳から粟が、鼻から小豆が、陰部から麦が、尻から大豆がそれぞれ化成したのである。
食物の神が殺され化成するというのは、まさに春の種まきと秋の刈り入れを象徴したも
の。この穀物を母神であるカムムスヒが五穀の種として世界に広めたという。