稲羽の素兎
大けがを負った稲羽の兎を助けた心優しき神
◆素兎がオホアナムヂの繁栄を予言する
スサノヲの六代目の子孫がオホアナムヂである。オホアナムヂには八十神と呼ばれる大
勢の兄弟がいた。彼らは全員、稲羽国のヤガミヒメとの結婚を望み、ある日、連れ立って
求婚へと出かけていった。このとき、荷物を持たされたオホアナムヂは次第に一行から遅
れてしまう。
その途中、気け多たの前に至ったオホアナムヂは、泣き伏している兎と出会う。見れば
皮を剥がされたうえに、傷口がひびわれて痛々しい様子。兎に理由を尋ねると、「実は淤
お岐きの島(隠岐島)にいたのですが、こちらに渡りたいと思い……」とケガの理由を話
し始めた。
海を渡る方法を考え続けた兎は、一計を案じる。ワニ(「鰐」と書きサメのことといわ
れる)と兎一族ではどちらの数が多いか、数えるから気多の前まで一列に並んでほしいと
ワニに持ちかけたのである。もとより数える気などない兎であったが、数えるふりをしな
がら、並んだワニの上を踏んで海を渡っていった。だが、気多の前を目前に控えた瞬間、
つい本心を暴露してしまう。そのため端のワニに捕まり、皮を剥がされたのだと涙ながら
に語った。
さらに先ほど通りかかった八十神たちに助けを求めたところ、海風に当たればいいと嘘
の治療法を教えられ、その通りにすると潮風の影響で傷が悪化したのだという。
気の毒に思ったオホアナムヂは治療法を教えてやった。教えられたように兎が傷口を真
水で洗い、ガマの花にくるまると体がすぐに元通りになる。喜んだ兎は「ヒメはあなたを
選ぶでしょう」と予言するのだった。
これが有名な稲羽の素しろ兎うさぎの神話だが、その史跡が鳥取県鳥取市に残されてい
る。兎が海を渡ったと伝わる白はく兎と海岸の近くには兎を祀った白兎神社がある。また
その境内には兎が体を洗った池も残されている。