八十神の迫害
英雄は死せず! 襲い来る兄弟とオホアナムヂの彷徨
オホアナムヂにヤガミヒメを奪われた八十神の怒りは尋常ではない。彼らはオホアナム
ヂを殺そうと企んだ。そんなことは露知らず、オホアナムヂは兄たちに誘われるままに伯
伎ほうき国の手て間まの山での赤あか猪い狩りへと出かけ、兄たちが赤猪と偽って転げ落
とした、焼けた大岩に潰されて、焼け死んでしまう。
オホアナムヂの母は嘆き悲しみ、カムムスヒにすがった。カムムスヒは、赤貝の女神キ
サガヒヒメと蛤はまぐりの女神ウムギヒメを遣わし、オホアナムヂを蘇生させた。
だが、八十神たちは執しつ拗ようにオホアナムヂを狙い続ける。そして今度はオホアナ
ムヂを木の割れ目に挟んで殺してしまったのだ。すると再び母がオホアナムヂを助け出
し、木の国(紀伊国)のオホヤビコのもとへと逃がした。ところがすぐに八十神が追いか
けてきてオホアナムヂを射い殺ころそうとする。そこでオホヤビコは、オホアナムヂを木
の虚うろ(ほらあな)からスサノヲが治める根の堅州国へと逃がしたのだった。
この戦いの神話に登場するオホアナムヂの死と再生は、子供から大人になる成年儀礼の
象徴といわれる。