スサノヲの試練
スサノヲの試練を克服させたスセリビメの機転
◆スサノヲは娘婿に過酷な試練を与える
八十神の迫害を逃れるためにオホアナムヂが向かったのは根の堅州国だ。この国は、地
底の国であるとも、海の彼方にある国であるともいわれるが定かではない。
その根の堅州国にたどり着いたオホアナムヂはすぐに恋に落ちる。相手はスサノヲの娘
スセリビメで、ふたりは目を合わせただけで心を通わせたという。スセリビメがこれを父・
スサノヲに報告すると、スサノヲもオホアナムヂを立派な神だと見込んだ。だが、彼がオ
ホアナムヂに与えたのはいくつもの試練であった。
まず寝室に通されたオホアナムヂは、部屋一面にうごめくヘビの群れを目にする。その
とき、そっとスセリビメから渡された領ひ巾れを振ってみると、ヘビは鎮まり、彼はゆっ
くり眠ることができた。するとスサノヲは翌日の寝室にムカデとハチが充満した部屋をあ
てがう。だがこれもスセリビメの助けを得て同様にやり過ごした。
次にスサノヲは、野原に鏑かぶら矢やを放ちオホアナムヂに取りに行くよう命じた。そ
して、オホアナムヂが野原に入ったと見るや、火を放ったのである。オホアナムヂが火に
囲まれ逃げ場を失ったとき、今度はふとネズミが現われ、「中はほらほら、外はすぶす
ぶ」と、足元に穴の存在を示唆。オホアナムヂはこの穴に隠れ、炎をやり過ごした。スサ
ノヲもスセリビメも、もはやオホアナムヂは死んだと思い、野に立ち尽くしていたが、そ
こへオホアナムヂが生還したのであった。
これを受けてスサノヲは最後の試練を与えた。オホアナムヂを八や田た間まの大おお室
むろ(広い部屋)に呼び入れ、自分の頭のシラミ取りを命じたのである。だが、実際に頭
にいたのは、シラミではなくムカデであった。すると、またもやスセリビメの機転がオホ
アナムヂを救う。オホアナムヂは彼女が渡してくれたムクの実を噛み砕き、赤土を吐き出
した。これにまんまとだまされたスサノヲは、シラミを噛み砕いているものと思って気を
許し、ついうとうとしてしまう。
これを見たオホアナムヂは、スサノヲの髪の毛を垂たる木きに結ゆいつけたうえ、室屋
の戸を大岩で塞いだ。そして、スセリビメの手をとり、スサノヲの弓と太刀をつかむと、
根の堅州国を逃げ出したのである。目を覚ましたスサノヲは追いかけようとするが、髪が
結ばれていてほどくのに手間取ってしまう。なんとかほどいて追いすがるものの、黄よ泉
もつ比ひ良ら坂さかに至った際、「その弓と刀を使って八十神を追い払い、葦原中国の王
となれ」と祝福の言葉をかけて、走り去るふたりを見送るのだった。地上に戻ったオホア
ナムヂは、兄たちを倒し、葦原中国の王オホクニヌシとなった。