【第二章の神々】
大オホ国クニ主ヌシノ神カミ
スサノヲの試練を潜り抜け、多くの業績を残した偉大なる葦原中国の主
出雲大社の祭神として祀られ、『古事記』ではスサノヲの六世の孫として、『日本書
紀』ではスサノヲの子供として登場しているのが、国くにつ神かみの代表格オホクニヌシ
ノカミである。国土を平定して国を造り、天てん孫そんにその国を譲るという、日本神話
の中で重要な役回りを果たし、「稲いな羽ばの素しろ兎うさぎ」など逸話も多い。
オホクニヌシは、オホアナムヂノカミ、アシハラノシコオノカミ、ヤチホコノカミほか
多くの別名を持っている。これは、大和朝廷が成立する以前に各地で祀られていた地方ご
との神が、オホクニヌシに集約されたためであろう。
さらに日本神話を読むと、もともとオホアナムヂと呼ばれ、兄弟に軽んじられていた神
が、スサノヲに与えられた試練を克服し、オホクニヌシとして国を平定するといったよう
に、業績をあげてはそのたびに名前も変わっていったことが分かる。
オホクニヌシは国造りの神であることから、人々に農耕や病気治療の方法をも授けたと
され、五穀豊穣、産業振興、医療、縁結びなど、あらゆる面で御利益を授ける神である。
各地の出雲系神社でオホクニヌシが祀られているが、古代には全国にもっと多くの出雲系
神社があったという。
奈良県桜井市の大おお神みわ神社の祭神オホモノヌシも、オホクニヌシの別名だといわ
れる。『日本書紀』には次のように記されている。第十代崇す神じん天皇の時代に疫病が
流行して人々が苦しんでいたところ、三輪山のオホモノヌシを祀るよう神託が下った。こ
れに従ったところ、疫病は収まった。そのため大神神社は製薬にも御利益があるとされ、
製薬業者からも信仰されるようになったという。また、「大国」が「ダイコク」とも読め
ることから、福の神である大だい黒こく天てんと同一視され、縁結びの神と目されるよう
にもなった。ここから、毎年旧暦の十月十一日~十七日にかけて全国の神々が出雲大社に
集い、縁結びの話し合いをするという信仰も生まれている。