【第二章の神々】
建タケ御ミ雷カヅチ之ノ男ヲノ神カミ
イザナキの剣についた血から生まれたとされる雷神
多くの神々を生み出したイザナキ、イザナミだが、火の神を生んだイザナミは、下腹部
に大火傷を負って命を落とす。嘆き悲しんだイザナキは、刀身が握り こぶしを一〇並べ
た長さのある十 剣で、火の神の首を斬り落とした。このとき、火の神の体や、流れ出た
血からも神々が誕生した。そのなかで、剣の鍔つばについた血が岩に降りかかって誕生し
たのが、タケミカヅチノヲノカミである。
名の「建」は猛々しいの意で、「御雷」は本来音の借字で厳いかめしいといった意味で
あったが、雷を司る神とされ、茨城県の鹿島神宮、奈良県の春日大社などで祀られてい
る。
国譲りの際に、オホクニヌシの子タケミナカタと力比べをし、自らの手を剣の刃に変え
て降参させたのもこの神である。
また、神じん武む東とう征せい神話では、タケミカヅチが、霊剣フツノミタマを自らの
力を代行させるべく下しているが、このような活躍が流布されたのは、中なか臣とみ氏
(のちの藤原氏)の意向があったと思われる。
中臣氏は、タケミカヅチを氏神としており、その力はすなわち中臣氏の勢力の反映とさ
れたのであろう。
だが、雷神信仰は、様々な様相を持っている。雷と降雨はほぼ一緒にやって来るため、
雷神は農耕に欠かせない水を支配すると考えられた。
また、陰おん陽みよう道どうが盛んになると、雷神はさらに多くの能力を見せるように
なった。宮中には、鳴雷を祀る「鳴雷神社」があったという。
鹿島神宮に祀られていることは前述したが、この神社には地震を鎮める要かなめ石いし
が伝わる。
かつて地震は地下に潜む巨大鯰なまずが起こすものという迷信があったが、近世になる
と、タケミカヅチはこの要石と関連づけられ、地じ震しん鯰なまずを踏みつける姿で描か
れるようになった。