【第二章の神々】
建タケ御ミ名ナ方カタノ神カミ
アマテラスが迫る国譲りに対し最後まで抵抗した武勇の神
オホクニヌシの息子で、国譲りのときにタケミカヅチに最後まで抵抗したと『古事記』
に書かれている。だが力及ばず敗れ、信濃しなのの諏訪湖まで逃れてこの地から出ないこ
とを誓って、やっと命を許された。
以来、長野県の諏訪大社で祀られているのだが、『古事記』にある逸話だけなら、まる
で出雲から諏訪にやって来た神のように思われる。しかし、諏訪社の伝承によるタケミナ
カタは、古くから狩猟の神として信仰されてきたとされる。諏訪大社上社の御おん頭かし
ら祭さいで、鹿の頭が神に捧げられるのはその遺風である。
腕力のある神であるためか、やがて軍神としても信仰されるようになり、七八三(延暦
二)年には坂さかの上うえの田た村むら麻ま呂ろが奥州遠征に向かう途中に諏訪大社に参
拝し、戦勝を祈願したという。また、中世の武家社会になると一層広く信仰され、元げん
寇こうの際には神威を発揮して元軍を退散させたと伝えられている。現在、タケミナカタ
を祀る諏訪神社は、全国に五〇〇〇余りにのぼっている。本来は農業を守る水源の神、風
の神であり、地元の人々が支えた信仰が様々な性格を帯びて広がったのである。