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第一部 第一章 警告(1)
日期:2024-01-09 17:21  点击:264

第一部 バールストンの悲劇

第一章 警告

「ぼくはいつも考えるんだけど――」と私がいいかけると、

「ぼくだって考えてるつもりさ」シャーロック・ホームズがいらだたしげにいった。

 私は辛抱強さの点では誰にも負けないつもりだが、こうもひとをばかにしたように話の

腰を折られては、正直いって不愉快だった。

「ホームズ君、きみって男はときどき気にさわることをいうね、まったく」私は遠慮せず

にいってやった。

 でも彼は、自分の考えにすっかり心を奪われていて、私の苦言 くげん に何の反応も示さな

かった。頬杖 ほおづえ をついたまま、目の前の朝食には手をつけようともせず、封筒からとりだ

したばかりの紙きれをじっとみつめている。やがて彼は封筒を手にとって明るいほうへさ

し出し、表側から垂れぶたの裏側にいたるまで丹念にしらべだした。

「ポーロックの筆跡だよ」彼は考えこみながら、「いままでにあの男の字には二度しかお

目にかかったことはないのだが、彼の字であることに疑いの余地はないね。eにギリシア

文字を使い、頭の部分を妙にわざとらしく書くのが彼の癖なのだが、しかし、もしこれが

ポーロックからのものだとすると、よほど重要なものにちがいない」

 彼の口ぶりは私を相手にというよりはむしろ自分にいいきかせているふうだったが、私

は好奇心にかられて耳を傾けているうちに、いつのまにかさきほどの腹立ちも忘れてし

まっていた。

「で、そのポーロックってのはいったい何者なんだい?」私はたずねた。

「ポーロックというのは、ワトソン君、一種の筆名 ノム・ド・プリユム だよ。身分証明のためのたん

なる記号でしかない。ところがその陰の正体はずるがしこくてとらえどころのない男なの

だ。このまえの手紙で彼はこの名前が本名ではないことを堂々と白状し、おまけに、この

大都会にうようよしている何百万人もの人間のなかから自分の正体をつきとめられるもの

ならつきとめてみよ、とぼくにたんかをきってよこした。もっともポーロックという男自

体はさして重要ではない。問題なのは彼の背後にひかえている大物のほうなのだ。ポー

ロックというのは、いってみれば、サメの案内役のブリモドキとか、ライオンの先棒 さきぼう を

かつぐジャッカルみたいに、恐るべき親玉にただあやつられているだけのチンピラのよう

なものにすぎない。しかもその親玉はただ恐ろしいというだけではない、ワトソン君、悪

辣 あくらつ なのだ、凶悪きわまりないのだよ。彼についてぼくにわかっているのはざっとこのく

らいだ。モリアーティ教授のことはきみに話したことがあったよね?」

「かの有名な科学的犯罪者のことかね。悪人仲間でのその名声ときたら――」

「ぼくの赤面のごとし、かい、ワトソン君」ホームズは苦い顔をしてつぶやいた。

「いや、ぼくは『世間で無名なることと表裏一体なり』といいたかったのだよ」

「うまいこというね、秀逸だよ!」ホームズは叫んだ。「ワトソン君は最近、思いがけな

い時に、真面目顔で冗談を言うようになったね。ぼくもうかうかしてられないな。だが

ね、モリアーティを犯罪者よばわりすると名誉毀損で訴えられるよ。そこがあの男の偉大

な点なのさ。あらゆる時代を通じて最大の陰謀家、あらゆる悪事の首謀者、暗黒街の支配

的頭脳――使いようによっては一国の運命をも左右しかねないほどの頭脳。それがあの男

の正体なのだ。ところが世間から疑惑の目で見られることもなく、まして非難を浴びるこ

となどもなく巧みに身をくらましているものだから、それこそきみがいまうっかりしゃ

べった言葉をたてにとってきみを法廷にひっぱりだし、きみのまる一年分の年金を名誉毀

損の慰謝料として堂々とまきあげていくことぐらいわけなくやってのける男なのさ。『小

惑星の力学』の著者として、彼が広く世に認められていることはきみも知っているだろ

う? あの本は純粋数学の頂点にまで達していたので、当代の科学評論家ですらほとんど

理解できなかったといわれている。こんな男にへたなことをいえるかい? 毒舌家の医

者、教授を中傷――世間ではそうとるにきまっているよ。まさに天才だね、ワトソン君。

でもね、ぼくが小物連中相手のつまらぬ仕事から解放されたら、きっとあの男をつかまえ

てみせるよ」

「ぜひその場に立ち会いたいものだね」私は心をおどらせて叫んだ。

「ところでさきほどのポーロックって男のことだけど」

「ああ、そうだったね。そのポーロックと名のる男は、いわば鎖の中心から少しはずれた

場所を占めている環のようなものだ。もっとも、ここだけの話だが、あの男はそれほど

しっかりした環ではない。ぼくがたしかめたかぎりでは、鎖のなかでいちばんもろいとこ

ろだね」

「でも、もっとも弱い部分が鎖の強度を左右するものだよ」

「まさにそのとおりだ、ワトソン君。だからこそポーロックの存在がきわめて重要になっ

てくるのだ。彼にもまだ良心というものが残っているらしく、ときたまひそかに送って

やった十ポンド札が効いたとみえ、いままでに一、二度貴重な情報をぼくに流してくれた

ことがある。それも、犯罪を懲 こ らしめるためというよりは、それを予見し未然にふせぐた

めに役立つたぐいの、きわめて貴重なものだった。こんどの情報にしたところで、もし暗

号の鍵さえわかれば、きっとぼくがいまいったような性質 たち のものだと思うよ」

 ホームズはふたたび、まだ使っていないとり皿の上にその手紙をひろげた。私は立ちあ

がって、彼の肩ごしにのぞきこんでみると、つぎのような奇妙な字が書きしるされてい

た。

534 C2 13 127 36 31 4 17 21 41

DOUGLAS 109 293 5 37 BIRLSTONE

26 BIRLSTONE 9 127 171

「何のことだと思う、ホームズ君?」

「秘密の情報を伝えようとしてきたことはたしかだね」

「でも解く鍵がわからない暗号文なんて無用の長物にすぎないだろう?」

「これに関するかぎりはまさにそのとおりだ」

「なぜ『これに関するかぎり』なんだい?」

「なぜって、世の中には、新聞の私事広告欄の謎めかした文句のように、鍵がなくとも楽

に解ける暗号文がいくらでもあるからだよ。その種の幼稚な暗号文なら疲れないから頭の

体操にはもってこいなのだが。しかしこれはそうはいかない。何かの本の中の頁にでてく

るいくつかの単語を指し示しているのはたしかなのだが、どの本のどの頁かがわからなけ

ればお手上げだよ」

「でも『ダグラス』(DOUGLAS)とか『バールストン』(BIRLSTONE)てのはいったい

何だろう?」

「きっとそれらの言葉が問題の頁にはなかったからだよ」

「それにしてもいったいなぜ彼は、その本を指示してこなかったのだい?」

「ワトソン君みたいに生まれつき抜け目のない、したたかな人間なら、もっともそこがき

みのいいところでもあるのだが、まさか暗号文に鍵を同封するようなことはしないだろ

う。万一他人の手に渡ったりしたらおしまいだからね。別々に郵送すれば二通とも同一の

手に誤配されないかぎりまず大丈夫だ。そろそろ二通目が届いてもいいはずなのだが。そ

れにはくわしい説明か、いやそれどころかおそらくは本そのものをはっきりと指示してあ

るとみてまずまちがいあるまい」

 ホームズの予想はそれから数分もたたないうちにもののみごとに的中した。給仕のビ

リーが私たちの待ちこがれていたまさにその二通目の手紙をたずさえて現われたのであ

る。


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09/30 15:18