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第一部 第一章 警告(3)
日期:2024-01-09 17:25  点击:222

 彼はさも面白がっているふうに語ったが、ぴくぴく動く濃い眉が内心の失望と焦燥を如

実に物語っていた。私は途方にくれ、うっとうしい気分で椅子にすわりこんだまま、暖炉

の火にじっと見入っていた。重苦しい沈黙が続いたあと、突然ホームズが叫び声をあげ戸

だなにかけ寄ったかと思うと、さきほどのとよく似た黄色い表紙の本を手にしてもどって

きた。

「新しいものばかり追っていると、ワトソン君、損をするね。時代の先端をいくと、き

まってひどい目にあうものだよ。一月七日ということでぼくたちはてっきり新しい年鑑だ

と思いこんでしまったのだ。ポーロックならきっと古いほうを暗号文に利用したにちがい

ない。もしあの暗号解読の鍵を知らせる手紙が書かれていたら、きっとそのことにふれて

いたはずだよ。さて、五三四ページではどんな言葉が待ちうけているかをみてみよう。十

三番目はThere だ。これはなかなかいけそうだ。百二十七字目に is とくる――There is だ」

ホームズは興奮して目を輝かせ、字を追うごとに彼のほっそりとした神経質そうな指がか

すかに震えた。「そして dangerか。はは、すばらしいぞ! 書きとってくれたまえ、ワト

ソン君。There is dangermaycomeverysoonone(危険―が―せまって―いる)そし

Douglas(ダ グ ラ ス) 続 い て

richcountrynowatBirlstoneHouseBirlstoneconfidenceispressing(バー ル ス

トン―の―バールストン―荘―に住む―田舎の―金持に―確信―さしせまっている)どう

だい、ワトソン君。厳密な推理のもたらしてくれる収穫をどう思うかね? もし八百屋が

月桂冠のような代物を売っていたら、ビリーにひとっ走り買いにやらせたい気分だね」

 私はホームズが解読するがままに単語を書きとったフールスキャップ紙をひざの上にお

き、奇妙な文句にじっと見入った。

「それにしてもなんとも奇妙なたどたどしい言い回しだな!」私がいうと、

「とんでもない、むしろみごとなもんだよ」ホームズがいった。「たった一段の単語のな

かから自分の用件に使えるものを探しだそうとしたって、そう都合よくほしい言葉がすべ

てみつかるというわけにはいかないさ。ある程度は受けとる相手が頭を働かせてくれるこ

とにたよらざるをえないものだよ。あの男がいおうとしていることはよくわかるよ。どん

な人物かは知らないが、ダグラスとかいう名の金持の紳士が文面にあるとおりの村に住ん

でいて、その男に悪の手が忍びよっている、ということらしい。しかも間近に迫っている

と確信しているというのだ。confidence(確信)はconfident(確信して)の間に合わせだ

よ。どうだい、分析の芸の冴えもなかなかのものだろう」

 満足すべき成果が得られないと暗くふさぎこんでしまうホームズだが、逆に仕事がうま

くはかどると、真の芸術家特有のあの無私の喜びを味わうのだった。彼がまだ成功に酔い

しれているうちに、ビリーがドアを勢いよくあけ、ロンドン警視庁のマクドナルド警部を

部屋に通した。

 これは一八八〇年代の終わりに近い頃の話で、当時はアレック・マクドナルドもまだ今

日のような全国的名声とは無縁の存在だったが、刑事部の有能な若手としてすでにいくつ

かの担当事件で頭角をあらわしていた。上背のあるがっしりした体格は並み並みならぬ力

の持主であることを物語っていたし、大きな頭蓋骨と濃いまゆの奥深くに輝いている目

は、彼がまた鋭い知性にもめぐまれていることをはっきりと示していた。口数の少ない、

きちょう面で頑固な性質 たち の男で、強いアバディーンなまりがあった。すでに二度ほど、

ホームズは彼に手を貸して手柄をたてさせてやっていたが、謝礼などには見向きもせず、

もっぱら事件を解くことの知的喜びで満足していた。そういうこともあって、このスコッ

トランド生まれの警部がアマチュア探偵ホームズに対して抱く親愛と尊敬の念には限りな

く深いものがあり、そのことは、難題にぶつかるたびに素直にホームズの意見を求めよう

とする姿勢にもうかがえるのだった。平凡なる精神は非凡なる精神を見抜けないものだ

が、才ある者は天才をひと目で見抜く。その意味で、天分においても経験においてもすで

にヨーロッパ随一の栄光に輝いていたホームズの助力を仰ぐことを何ら恥としないマクド

ナルドには、探偵としての才能が十二分に備わっていたといえるのである。ホームズは友

情に左右される性質 たち の男ではなかったが、この大柄のスコットランド男にはいつもやさ

しく、彼の姿をみて微笑んだ。

「やあ、早起きですな、マック君」彼はいった。「三文の得をしましたか。どうやら不幸

にも何か厄介ごとがもちあがったらしいね」

「『不幸にも』というより『幸運にも』とおっしゃってくれたほうが的 まと をえていると思

うんですがね、ホームズさん」警部は抜け目なくにやりと笑って応じた。「そうですね、

こんなうすら寒い朝には気のきいたセリフでもちっと吐かにゃやりきれませんて。いや煙

草はけっこうです。急いどるもんですから。事件の捜査というのはできるだけ早いうちに

手を打つことが肝心ですものね。もっともこんなこたあ、あなたご自身がいちばんよくご

存じのはずですが。しかし――まさか――」

 警部はふいに言葉をとぎらせ、テーブルの上の紙きれを呆然として穴のあくほど見つめ

ていた。それは私がさきほど謎めいた暗号を解読したものを書きとった紙きれだった。

「ダ、ダグラスだって! バ、バ、バールストン! これは何です、ホームズさん。まる

で魔法みたいだ! 一体全体どこでこんな名前を知ったのです?」彼はどもりながらいっ

た。

「それはワトソン君と私とがいましがた解いていた暗号文にあったのだよ。でもどうし

て? その名前がどうかしたのかい?」

 警部はきょとんとして私たちふたりの顔をみくらべていたが、やっと口を開いた。

「じゃあいいましょう。バールストン荘のダグラス氏がけさ惨殺されたのです」


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09/30 15:21