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第一部 第三章 バールストンの悲劇(2)_恐怖の谷(恐怖谷)_福尔摩斯探案集_日语阅读_日语学习网
日期:2024-10-24 10:29  点击:3336

 なお、領主館にはもうひとりの人物がいた。といっても、ときたま訪れてはしばらく泊

まっていくだけだったが、これから述べる例の奇怪な事件が起こったときにたまたま館に

滞在していたものだから、一躍、世間に名を知られることとなったのである。この男はセ

シル・ジェイムズ・バーカーといい、ロンドンのハムステッドにあるヘイルズ荘に住んで

いた。セシル・バーカーはダグラス夫妻のお気に入りの客で、たびたび領主館にやってき

ていたので、背の高い、しまりのない体つきをした彼の姿はバールストンの表通りではお

なじみのものだった。彼はまた、イギリスのこの土地へ新しく移り住んでくる以前のダグ

ラス氏の隠された過去を知っている唯一の友人だということで、いっそう注目されてい

た。バーカーはまぎれもないイギリス人だったが、彼の話しぶりから、彼が初めてダグラ

スと知りあったのはアメリカにいたときで、しかも向こうではかなり親しくつきあってい

たことがあきらかだった。かなりの財産家らしく、しかも独身だといううわさだった。年

はダグラスよりやや若く、せいぜい四十五くらい。背が高く、堂々とした胸の厚い男で、

きれいにひげをそった顔はまるでプロボクサーさながら、太くて黒い精悍なまゆの奥に輝

いている強情そうな黒い目には、腕力にものをいわせなくとも敵の群れのなかを進みうる

だけの威力があった。乗馬も狩猟もやらず、パイプをくわえて古びた村のまわりを散歩し

たり、ときにはダグラスとふたりで、ダグラスがいないときは夫人といっしょに、美しい

郊外へドライブに出かけたりして時をすごしていた。「のん気でおおらかなお方でした

が、といってあの方の機嫌をそこねるようなまねだけは絶対にしたくなかったですねえ」

というのが執事エイムズの感想だった。

 ダグラスとは心を許しあった仲だったが、夫人との仲もかなり親しく、そのせいで、夫

のダグラスは、召使いたちがはたでみていてわかるほど心おだやかでない様子をみせたこ

とも一度ならずあった。惨事が起こったとき家族の一員に加わっていた第三の人物とは、

ざっとこんなふうな男だったのである。この古い館には雇い人たちも大ぜいいたが、き

ちょう面で有能な、尊敬にあたいする人物である執事のエイムズと、夫人を助けて家事を

つかさどっている、ふっくらと太って陽気なアレン夫人のふたりをあげておけばじゅうぶ

んだろう。ほかにも六人の召使いたちがいたが、彼らは一月六日の夜の出来事には何ら関

係がないからである。

 サセックス州警察のウイルソン巡査部長を主任とする地元の小さな警察署に最初の急報

がとどいたのは夜の十一時四十五分だった。セシル・バーカー氏がひどく興奮して警察署

の入口に駈けこんできて、ベルをけたたましく鳴りひびかせたのである。領主館で恐ろし

い出来事が、ジョン・ダグラス氏が殺されました。息せき切ってそう告げた。彼はその足

で急いで館へひき返し、巡査部長は、州の警察本部に重大事件が発生したことをすみやか

に連絡したうえですぐにバーカー氏のあとを追ったが、現場に到着したときにはすでに十

二時を少しまわっていた。

 巡査部長が館に着いてみると、跳ね橋はおりており、あちこちの窓から燈火 あかり がもれて

いて、屋敷全体が騒然としていた。青ざめた顔をした召使いたちが広間のすみに身を寄せ

あい、すっかりおびえきった執事が手をもみながら玄関につっ立っていた。ただセシル・

バーカーだけは冷静な態度を装っていた。彼は玄関わきのドアをあけて待っていて、巡査

部長を手招きした。そのとき折よく、快活で有能な村医者のウッド博士も村から駆けつけ

てきた。三人が連れだって、惨劇の舞台となった部屋に入っていくと、恐怖にうちのめさ

れてしまった執事があとにつづき、恐ろしい光景が女中たちの目に入らぬようにとドアを

閉めきった。

 部屋の中央に、死体が大の字になって仰向けに横たわっていた。死体は寝まきの上にピ

ンクのガウンをひっかけていただけで、裸足でスリッパをはいていた。医者は死体のそば

にひざまずき、テーブルの上にあったランプ・スタンドをかざした。ひと目みただけで、

医者には自分の出る幕がないことがわかった。ひどい傷だった。死体の胸のところに奇妙

な武器がもたせかけてあったが、ひき金から一フィートのところで銃身を切り落とした散

弾銃だった。この銃で至近距離から撃たれ、散弾銃を顔にまともに受けて頭部をこなごな

にされたことはあきらかだった。破壊力を増すため、ふたつのひき金を針金で連結させて

同時に二発を撃てるようにしてあった。

 村の警官は、突然わが身にのしかかってきた大きな責任にとまどい、うろたえていた。

「上官がくるまでは何にも手をつけないようにしましょう」むごたらしい頭部をおそるお

そる見つめながら、声をひそめていった。

「まだ何もさわっていません。その点は保証します。何もかも発見したときのままです」

セシル・バーカーが言った。


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