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第一部 第四章 暗闘(1)_恐怖の谷(恐怖谷)_福尔摩斯探案集_日语阅读_日语学习网
日期:2024-10-24 10:29  点击:3336

第四章 暗闘

 サセックス州警察の捜査主任が、バールストンのウィルソン巡査部長からの急報をうけ

て、本署から馬をむち打ち二輪の軽馬車 ドッグ・カート で駆けつけてきたのは、午前の三時だっ

た。彼は五時四十分の列車に託してロンドン警視庁へ報告を送り、正午には私たちを出迎

えにバールストン駅に姿をあらわしていた。このホワイト・メイソン氏は、もの静かな気

楽そうな男で、ひげをきれいにそりあげた顔は血色がよく、やや太りぎみの体をゆったり

としたツイードの服に包み、たくましいがに股にゲートルを巻いたところなど、まるで小

百姓か隠居した猟場番人そっくりで、地方の敏腕刑事とはとても思えなかった。

「えらい事件ですよ。マクドナルドさん」メイソンは何度もそれを繰り返し、「そのうち

聞屋 ぶんや 連中がかぎつけて、はえのようにたかってくるでしょう。連中に現場を荒らされな

いうちに早いとこ仕事をかたづけてしまいたいものです。こんな事件は初めてです。あな

たにもきっと思い当たることがありますよ、ホームズさん。むろんワトソン先生にもで

す。お医者さんのご意見はぜひうかがわねばなりますまい。お部屋はウエストヴィル・

アームズにとってあります。ほかに宿屋がないもんですから。でもわりときれいないいと

ころだという話です。お荷物はこの男に運ばせます。ではみなさん、どうぞこちらへ」

 このサセックスの刑事はにぎやかで親切な男だった。十分後には私たちは宿についてい

た。さらに十分後には、宿屋の別室に腰をおろして、前章で述べたような事件のあらまし

の手みじかな説明をうけていた。マクドナルドはときおり手帳に控えたりしていたが、

ホームズは、世にもめずらしい花を観察している植物学者のような、驚きと感嘆のいりま

じった表情をうかべて聞き入っていた。

「めずらしい!」ひととおり話がすすむと、ホームズが口を開いた。「じつにめずらしい

事件だ。こんな奇怪な事件に出くわしたのは初めてですよ」

「そうおっしゃるだろうと思っておりました」ホワイト・メイソンがうれしそうに言っ

た。「このサセックスもそう時代遅れの田舎じゃありません。さて、けさの三時から四時

の間に私がウィルソン部長から捜査を引きついだところまでのいきさつは、ざっと以上お

話したとおりです。老いぼれの馬をさんざんむち打ちながら駆けつけたもんです! とこ

ろがいざ着いてみると、それほど急ぐこともなかったのです。これといって私がすぐしな

ければいけないことは何もなかったのですから。ウィルソン部長がすっかり調べつくして

いました。私としてはそれらをたしかめ検討したうえで、二、三つけ加えたくらいのもの

です」

「ほう、どんなことですか?」ホームズが鋭くたずねた。

「ええ、まず金づちを調べてみました。居あわせたウッド先生も手つだってくれました

が、人をなぐるのに使われた形跡はありませんでした。私は、もしかしてダグラス氏がそ

れで身をふせごうとしていたら、絨毯の上に落とすまえに犯人に傷ぐらいつけたのかもし

れない、と思ったわけです。でも血のしみなんかありませんでした」

「でもそれだけではなんともいえないな」マクドナルド警部が口をはさんだ。「凶器に使

われた金づちになんのあともなかったという殺人事件は山ほどあるんだから」

「たしかにそうです。使われなかったとはいいきれません。でももし血のしみでもついて

いれば、手がかりにはなったはずです。結局、何もついていなかったわけですが。で、つ

ぎに銃を調べてみました。鹿弾 しかだま 用の大型散弾銃で、ウィルソン部長がみとめたとおり、

ふたつの引き金が針金でつながれていて、うしろのほうを引けば、二発同時に発射される

ようになっていました。誰がやったにせよ、最初の一撃で確実に相手の息の根をとめるは

らだったわけです。銃身が短く切断されていて、全長二フィートたらずしかありませんか

ら、上着の下にすっぽり隠してもちはこべます。製造元の名ははっきりとは読みとれませ

んでしたが、ふたつの銃身の間のみぞの部分に、PENという文字が刻まれており、そこ

で切り落とされていてあとはわかりません」

「Pという文字は頭に飾りがついた大きな文字で、EとNは小さな字でしたか?」ホーム

ズがたずねた。

「そのとおりです」

「ペンシルヴェニア小銃会社です――有名なアメリカの会社ですよ」ホームズが言った。

 ホワイト・メイソンは、やっかいな難問をひとことで解きあかしてくれたハーリー街の

専門医をながめる片田舎の開業医のような目つきで、私の友人をみつめた。

「たいへん参考になります、ホームズさん。おっしゃるとおりにちがいありません。でも

おみごと、いやおみごとですねえ! 世界じゅうの銃砲会社の名を頭につめこんでおられ

るのですか?」

 ホームズは手をふって、それにとりあおうとはしなかった。

「アメリカ製の猟銃にまちがいありませんよ」ホワイト・メイソンが続けた。「アメリカ

の一部の地方では銃身を切りつめて凶器に使うということを、何かで読んだ記憶がありま

す。だから、製造元の名をぬきにしても、私もそうではないかと思っていたのです。だと

すると、あの館にしのびこんで主人を殺した男は、アメリカ人だとみてさしつかえありま

すまい」

 マクドナルドは首を横にふって、

「ねえ、きみ、それは早計というものだよ。そもそも、外部のものが館に侵入したという

証拠すらまだあがっていないはずだよ」

「でも、開いていた窓といい、窓わくの上の血といい、妙な紙きれといい、部屋のすみの

くつ跡といい、そしてさらに鉄砲とくれば、証拠はじゅうぶんですよ」

「どれもこれもわざと細工できるものばかりだよ。ダグラス氏はアメリカ人だった。そう

でないまでも、アメリカ暮らしの長かったひとだよ。バーカー氏も同様だ。だとしたら、

アメリカ人の仕わざとみなすために、わざわざ新たなアメリカ人をもち出す必要はない

よ」

「でも執事のエイムズが――」

「エイムズがどうしたんだい? 信頼できる男なのか?」

「サー・チャールズ・チャンドスに十年も仕えてきた、岩のように堅い男ですよ。ダグラ

ス氏が五年前に領主館を手にいれて以来、ずっと彼のもとで働いています。あんな鉄砲は

あの屋敷では一度もみたことがないそうです」

「あれは隠せるようになっている。そのために銃身を切りつめてあるのだよ。ちょっとし

た箱になら、すっぽりはいるさ。それでいて家のなかにはなかったと、はたしていいきれ

るものかね?」

「でもとにかく、見たことがないというのはたしかでしょう」

 マクドナルドは、スコットランド人らしく頑固に反論した。


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