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第一部 第五章 脇役の人々(1)
日期:2024-01-11 16:04  点击:279

第五章 脇役の人々

「書斎の調べはけりがつきましたか?」私たちが館のなかへひき返したとき、ホワイト・

メイソンが言った。

「さしあたってはね」警部が答え、ホームズもうなずいた。

「ではひきつづいて屋敷の連中の証言をおききになりますか? 食堂を使わせてもらう

よ、エイムズ。じゃまず、きみからいくとするか。知っていることを残らずしゃべってく

れたまえ」

 執事の供述は単純明快そのもので、うそ偽りのないことがはっきりとうかがえた。

 ダグラスさまがこのバールストンに移り住んできた当初から仕えており、もうかれこれ

五年になります。ダグラスさまはアメリカでひともうけした方らしく、かなりの財産家の

ようでした。親切で思いやりのある主人でした――もっとも以前仕えていた旦那さまほど

ではありませんが、何もかも思いどおりというわけにはいかぬものです。ダグラスさまが

不安を抱いておられる様子はまったくみうけられませんでした。それどころか、旦那さま

ほど恐れを知らぬお方はみたことがございません。万事古風なしきたりを守るのが好きな

お方で、跳ね橋を毎晩あげさせていらしたのも、館の古い習慣にしたがっただけのことで

した。ダグラスさまは、ロンドン行きはもとより、村を離れることもめったになさいませ

んでしたが、事件の前日はタンブリッジ・ウエルズまで買い物に行かれました。その日の

旦那さまはいつになくいらいらした様子で、落ちつきがなく、なにか心おだやかでないも

のがあるようにおみうけしました。その夜、手前がまだ寝室にさがらず、屋敷の裏手にあ

る食器室で銀の食器類を片づけていましたところ、ふいにベルがけたたましく鳴るのをき

きました。銃声はきこえませんでしたが、それも無理はないと思います。食器室と台所は

屋敷のもっとも奥で、あのお部屋とのあいだはドアで幾重 いくえ にも隔てられていて、長い廊

下がございますから。はげしいベルの音をききつけて、家政婦が自室からでてきましたの

で、いっしょに玄関のほうへ参りました。階段の下まできますと、奥さまがおりてこられ

るのがみえました。いいえ、奥さまはあわててはおられませんでした。――とくにおとり

乱しの様子もございませんでした。奥さまが階段をおりきられたところへ、バーカーさま

が書斎からとびだしてこられて、奥さまをおしとどめられ、おひき取り下さいと申されま

した。

「お願いですから、お部屋にもどってください! ジャックは死んでいます。もう手のほ

どこしようがありません。お願いですから、ひき返してください!」そうバーカーさまは

叫ばれました。

 階段の下でしばらく説得された後、奥さまはもどって行かれました。奥さまは泣きわめ

いたりはなさいませんでした。悲鳴ひとつおあげにもなりませんでした。家政婦のアレン

夫人が二階へお連れして、奥さまの寝室につききりでいました。手前とバーカーさまはそ

れから書斎にひき返して、なかにはいりました。そこで目にしたものはすべて、あとで警

察の方々がやってこられたときとそっくり同じでした。ローソクは消えていましたが、ラ

ンプがともされていました。ふたりして窓からそとをのぞいてみましたが、そとは夜の闇

につつまれていて何もみえず、もの音ひとつきこえませんでした。ふたりは広間へとびだ

すと、手前は巻き揚げ機をまわして橋をおろし、バーカーさまは警察へと急行なさいまし

た。

 ざっと以上が執事の証言の概要である。

 家政婦のアレン夫人の供述も、聞いたかぎりにおいては、同僚の執事の言ったことを裏

がきするだけのものだった。

 わたくしの部屋は、エイムズが仕事をしていた食器室よりも表に近いところにございま

した。床につくしたくをしておりますと、大きなベルの音がきこえました。じつはわたく

し耳が遠ございまして、銃声がきこえなかったのはおそらくそのせいでございましょう。

いずれにせよ書斎とはかなり離れていました。ほかにはドアがばたんとしまるような音を

耳にしたのを覚えております。もっともこれは、ベルが鳴るよりかなり前――少なくとも

半時間くらい前のことでございましたが。エイムズが表のほうへ走って行きますのでわた

くしもついて行きました。バーカーさまが真っ青になって興奮しながら書斎からとびだし

てこられるのをおみかけしました。バーカーさまは階段をおりてこられた奥さまを押しと

どめられました。お部屋におもどり下さいとお願いなさった時、奥さまは何かおっしゃい

ましたが、わたくしにはききとれませんでした。

「奥さまをつれてあがって、そばについていておあげなさい!」そうバーカーさまにいわ

れました。

 そこで奥さまを寝室へおつれして、精一杯おなぐさめ申しました。奥さまはかなりおと

り乱しで全身がわなわなとふるえておいででしたが、階下 した へおりようとはなさいません

でした。ガウンにくるまって両手にお顔をうずめ、暖炉のそばにじっと腰をおろしておら

れました。結局、わたくしはほとんどひと晩じゅう、奥さまのおそばにおりました。ほか

の召使いたちはみんなもう眠ってしまっており、警察の方々がおみえになる直前まで何も

知らずじまいでした。召使いたちの寝室は屋敷のいちばん奥にあたりますので、何もきこ

えなかったとしても当然だと思います。

 家政婦からききだせたのはこれだけだった。こちらの質問に対してもただおろおろとな

げき悲しむばかりで、たずねるだけむだだった。

 アレン夫人につづいてセシル・バーカー氏が証言した。

 昨夜の出来事につきましては、すでに警察に申したこと以外ほとんどつけ加えることは

ございません。私個人の意見としましては、犯人は窓から逃げたものと確信しておりま

す。そのことは血のあとがはっきり物語っていると思います。それに、橋があがっている

のですから、ほかに逃げようがないはずです。どういう風に姿をくらましたのかはわかり

ません。あの自転車も、もし犯人のものだとすれば、なぜおいていったのか、ふにおちま

せん。堀でおぼれ死んだとは考えられません。せいぜい三フィートの深さしかないのです

から。

 こんどの殺人事件については、彼なりのきわめて明快な意見をもっていた。


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09/30 13:30