日语学习网
第一部 第五章 脇役の人々(3)
日期:2024-01-11 16:06  点击:276

「いったいどんな権利があってそんなことをきくのです!」彼は叫んだ。「それがあなた

の調べていることとどういう関係があるのです?」

「もう一度おききします」

「断固、お答えしかねます」

「答えを拒否なさることはご自由だが、拒絶なさること自体りっぱな答えになっていると

いうことは、ご承知の上でしょうね。何か隠しごとがあればこそ、拒絶なさるわけですか

らな」

 バーカーは真っ黒な太いまゆをしかめ、けわしい顔つきをしてつっ立ったまま、しばら

くじっと考えこんでいたが、やがてにっこりして顔をあげた。

「わかりました。あなたがたが職務をきちんと遂行なさっているのにすぎないのだとした

ら、私にそれを邪魔する権利はないわけですよね。ただこのことでダグラス夫人にうるさ

く質問することだけはやめて下さい。そうでなくともこんどの事件が相当こたえているの

ですから。じつは、ダグラス君にはひとつだけ欠点がありました。嫉妬ぶかかったので

す。彼は私が好きでした――あれほどの友情の持主はめったにいないでしょう。しかも妻

を熱愛していました。彼は私がここにくることがうれしくてたまらないらしく、しょっ

ちゅう呼んでくれるのです。そのくせ夫人と私がうちとけて話しこんだり、親しそうなそ

ぶりをみせたりすると、嫉妬心がむらむらとわき起こり、かっとなって、とてもひどいこ

とを口走ったりするのです。そのせいで、もう二度もくるものかと心に誓ったことも何度

かありましたが、そのたびごとに彼はしみじみと後悔して、またぜひきてくれと手紙をよ

こすものですから、ついまたやってくるはめになったのです。しかしこれだけは信じて下

さい。この夫人ほど夫を愛し、夫に貞節を尽くした女性 ひと はありません。また、彼の友人

として、私ほど誠実だったものもいないはずです」

 熱意のこもった言葉だったが、マクドナルド警部はしつこく食いさがった。

「死体の指から結婚指輪がぬきとられているのはご存じでしょうね?」

「そうらしいですね」バーカーが言った。

「『らしい』とはどういうことです? それが事実なのはご存じのはずですが」

 バーカーは一瞬まごつき、ためらっているようにみえた。

「私が『らしい』と言ったのは、ダグラス君が自分でぬきとったことも考えられると思っ

たからです」

「誰がぬきとったにせよ、指輪がなくなっているということだけをみても、こんどの悲劇

に結婚のことがからんでいるらしいことは、誰の目にもあきらかのように思えるのですが

ね?」

 バーカーはがっしりとした肩をすくめて、

「私にはなんともいえませんが、もし万一、夫人の名誉にかかわるようなことを思いえが

いていらっしゃるのなら」と言い、一瞬目を鋭く光らせたが、感情をぐっと抑えて、「そ

う、それなら見当ちがいだというだけです」

「あなたにおたずねしたいことはさしあたってこれぐらいです」マクドナルドは冷ややか

にいった。

「ちょっとおききしたいことがあります」ホームズが言った。「あなたが書斎におはいり

になったときは、テーブルの上にローソクがついていただけだったのですね?」

「ええ、そうでした」

「そのあかりで、恐ろしい出来事に気づかれたわけですね?」

「そのとおりです」

「そこですぐにベルを鳴らして人を呼んだ?」

「ええ」

「で、みんなはすばやく駆けつけてきた?」

「ものの一分もたたなかったくらいです」

「それなのにみんなは、行ってみるとローソクはついておらずランプがともされていたと

言っています。これはきわめて注目すべきことのようですが」

 またもバーカーはとまどいの表情をみせ、しばらくためらったすえ、

「べつになんでもないことですよ。ローソクのあかりでは暗すぎたものですから、もっと

明るいものをと思ってみまわしたところ、テーブルの上のランプが目にはいったのでそれ

をつけたのです」

「そしてローソクを吹き消した?」

「そのとおりです」

 ホームズはそれ以上質問しなかったので、バーカーは私たちの顔をじろじろみまわして

から――その目つきが私には妙に挑戦的に感じられたのだが――くるりと背を向け、部屋

を出ていった。


分享到:

顶部
09/30 13:30