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第一部 第七章 解決(6)_恐怖の谷(恐怖谷)_福尔摩斯探案集_日语阅读_日语学习网
日期:2024-10-24 10:29  点击:3337

「この印 しるし をみたのがきっかけでした。みたとたん、はっと思いついたのですね。死体の

男は、背たけといい、髪の色といい、からだつきといい、私にそっくりでした。顔はあれ

じゃ誰がみたって見分けがつきません、ひどいもんです! で、私はいまここにひろげて

ある衣服をやつの死体からぬがせて、バーカー君とふたりして十五分ほどかかって私のガ

ウンをかわりに着せ、ごらんになったとおりの姿でころがしておいたのです。それから、

やつが身につけていたものをひとまとめにしてひもでくくり、重しになりそうなものがひ

とつだけ目にはいったので、それをつけて窓から投げこんだわけです。やつが私の死体の

上においていくつもりだったらしい紙きれは、そのままやつの死体のそばにおいておきま

した。つぎに、私の指輪をはずして、やつの指にはめてやったのですが、それが結婚指輪

ということになりますと」――たくましい手をさしだして――「おわかりいただけると思

いますが、私ははたと困りはててしまいました。なにしろ結婚以来一度もはずしたことの

ないものなので、やすりでも使わないことには抜けっこありません。いずれにせよ、手ば

なす気にはとてもなれそうにはなかったし、たとえその気になったとしても、抜くのは現

実には不可能だったわけです。それでこればかりはそのままにしておいて、あとは運を天

にまかせるしかありませんでした。そのかわりにといってはなんですが、私はバンソウコ

ウをとってきて、いま私がはっているのと同じ場所にはっておいたのです。さすがのホー

ムズさんでもってしても、あれだけはみぬけなかったようですね。あそこでもしバンソウ

コウをはがしてごらんになっていれば、傷なんてみあたらなかったはずです。

 まあ、ざっとこんな具合でした。あとは、しばらく身を潜めていて、そのうちそっとぬ

けだしてどこかで妻と落ちあうことができれば、やっと平穏な余生をおくる機会にめぐり

あえたことになるはずでした。私が生きていると知るかぎり、あの悪魔のような連中はい

つまでも私をおびやかしつづけるでしょうが、ボールドウィンがついに復讐を遂げたこと

を新聞で知れば、私はやつらの魔の手から永久に解放されるわけです。バーカー君や妻に

そういった事情をくわしく説明しているひまはなかったのですが、ふたりともじゅうぶん

に察してくれて、私に協力してくれました。この隠れ場所については、私はもちろんのこ

と、エイムズもよく知っていたはずですが、彼には、まさか事件と関係があろうなどとは

思いもよらなかったものとみえます。で、私はそこに身を潜め、あとはいっさいをバー

カー君の手にゆだねたわけです。

 そのあとバーカー君がやったことは、みなさんはおそらくすっかりご存じのことと思い

ます。まず窓をあけ、窓わくに血のあとをつけて、犯人がそこから逃げたように見せかけ

ました。どだい無理な話ですが、橋があがっている以上、そうでもするしかなかったので

す。そしてすっかり手はずが整うと、心を奮 ふる いおこしてベルを鳴らしました。そのあと

のことは、すでにご存じのとおりです。さて、みなさん、あとはあなたがたにおまかせし

ます。私としては、真実を、ありのままにすべて申しあげました。神に誓ってもいいで

す! それで、私のほうからおききしたいことがひとつだけあります。イギリスの法律で

は、私はどういう立場におかれるのでしょうか?」

 しばらくしいんと静まりかえっていたが、沈黙を破ったのはシャーロック・ホームズ

だった。

「イギリスの法律は、だいたいにおいて公正です。非道なあつかいをうけることはないで

しょう。むしろ私のほうでおききしたいことがあるのですが、あの男は、あなたがここに

住んでおられることをどうやってかぎつけたのでしょう? さらに、屋敷にしのびこむ手

口や、あなたを待ちぶせるのに都合のよい場所をどうやって知ったのでしょうね?」

「さっぱり見当がつきません」

 ホームズの顔は青白く、沈んでいた。

「話はどうやらまだ終わっていないみたいですね」ホームズが言った。「あなたのゆくて

には、イギリスの法律よりも、アメリカからの敵よりも、もっと恐るべき危険が待ちうけ

ているかもしれませんよ。私にはそれが目にみえるような気がします、ダグラスさん、悪

いことは申しませんから、まだまだ用心なさったほうがいいですよ」

 さてここで、辛抱づよい読者のみなさんに、しばらくの間、私とともに、サセックス州

のバールストン領主館からも、ジョン・ダグラスと名のる男の奇妙な話で幕をとじること

になった波乱にみちた年からも、遠くはなれていただきたくお願いする次第である。時間

をさかのぼることに十年ばかり前、空間にして数千マイル西方に移っていただき、奇怪で

恐ろしい物語を――ありのままに述べても、とても現実に起こった出来事とは信じてもら

えないような奇怪で恐ろしい物語を、たっぷりと味わっていただきたい。ひとつの話の途

中で別の話を押しつけるとは、などとお気を悪くなさらないように。読んでいかれるうち

に、そうではないことがわかっていただけると思う。そして、私がこの遠い昔のはるか彼

かなた の出来事をくわしく語り終え、みなさんがこの過ぎ去りし昔の謎を解いてくれたあか

つきには、私たちは再びベイカー街のこの部屋に落ちあって、これまでの多くの不思議な

事件と同じように、この物語の結末をみとどけたいと思う次第である。


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