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第二部 第九章 支部長(5)_恐怖の谷(恐怖谷)_福尔摩斯探案集_日语阅读_日语学习网
日期:2024-10-24 10:29  点击:3336

「おい、若 わけ えの、おめえの面 つら に見おぼえはねえぜ」

「最近きたばかりなんです、マギンティさん」

「いくら新顔だからって、紳士を呼ぶのにきちんと肩書きをつけれねえほどではあるめ

え」

「マギンティ議員さんだよ、若えの」とりまきのうちから声がとんだ。

「すみません、じゃ議員さん。この土地のしきたりを知らないもんで。じつはあなたに会

うようにといわれたもんだから」

「で、いま会ってるわけだ。おれはこのとおりの男だぜ。おれをどう思うね」

「さあ、それはもう少したってからでないと。でも、あなたの心がそのからだのように大

きくて、魂もその顔のようにりっぱだったら、もう申し分なしですよ」

「ちぇっ、さすがアイルランド野郎だけあって、生意気なことをほざきやがるわい」酒場

の主人が叫んだ。この大胆不敵な若者の言葉に調子をあわせるべきか、それともここで威

厳を示すべきか、迷っている様子だった。「するとなにかい、少なくともおれの風体はお

気に召してくれたわけかい?」

「もちろん」マクマードがいった。

「でおれに会うようにいわれたって?」

「そうです」

「誰に?」

「ヴァーミッサ三四一支部の同志スキャンランにです。では議員さんの健康を祝して、そ

してこれを機によろしくおつきあいいただけることを願って」彼はふるまわれたグラスを

かかげて口のところへもっていき、小指をぴんとはねあげて飲んだ。

 じいっと彼の様子を見まもっていたマギンティは、黒い眉をあげた。

「ほう、そうくるのかい? しかしこいつはもっとよく調べてみなくちゃなるめえな、え

えと――」

「マクマードです」

「もうちょっとくわしくな、マクマード君よ。この土地じゃ、人をそうやたらに信用した

りはしねえし、人のセリフをそのまま信じるわけにもいかねえのでな。ちょっとこっちへ

きてもらおうか。奥へはいりな」

 酒場の奥は小さな部屋になっていて、酒だるが周囲にずらりと並べてあった。マギン

ティはていねいにドアをしめると酒だるのひとつに腰をおろし、葉巻をじっとかみしめな

がら、うす気味悪い目つきで相手をじろじろ観察した。そうして二、三分の間、じっと黙

りこんでいた。

 マクマードは片手を上着のポケットにつっこみ、もう一方の手でとび色の口ひげをひね

りながら、喜んで相手の見るにまかせていた。すると突然、マギンティは身をかがめ、見

るからに不気味なピストルをとりだした。

「おい、この野郎、もしおれたちをだましていたことがわかったら、そのときは命はない

ものと思え」

「これはまた、『自由民団』の支部長がよそからはるばるやってきた団員を迎えるにし

ちゃ、妙なごあいさつですね」マクマードはやや開き直っていった。

「ふん、ところが団員かどうかそれをまず証明してもらわんことにはな。できねえとな

りゃ、命はもらうぜ。どこで入団した?」

「シカゴ二九支部です」

「いつだ?」

「一八七二年六月二十四日です」

「支部長は?」

「ジェイムズ・H・スコットです」

「地区の指導者は?」

「バーソロミュー・ウィルソンですよ」

「ふむ! すらすらと答えやがるぜ。ここで何をしてる?」

「働いてますよ、あなたと同じようにね。といっても、もっとけちな仕事だけど」

「受け答えだけは抜け目のねえ野郎だな」

「ええ、生まれつき口は達者なもんで」

「で、腕のほうも達者か?」

「仲間うちじゃそれで知られてましたよ」

「まあ、そんなことはどうせすぐにわかることだがな。ここの支部について何かうわさで

もきいているか?」

「一人前の男なら支部員にしてくれるってききました」

「おめえなら大丈夫だろう、マクマード君よ。で、なぜシカゴを出てきたんだ?」

「そいつだけは口がさけてもいうもんか」

 マギンティは目をみはった。こんなふうに口答えされることには慣れていなかったの

で、おかしかったのである。

「なぜいえねえ?」

「同志にうそはいえませんからね」

「じゃ人に話せねえような悪いことなんだな」

「まあそうとりたきゃとってくれてもけっこうです」

「おい、おめえ、支部長たるおれが、素姓もあかせねえような男を受けいれられるとでも

思っているのか」

 マクマードは困ったような顔つきをしていたが、やがて内ポケットからしわくちゃに

なった新聞の切り抜きをとりだした。

「さつ ヽヽ にたれこむようなことはしないでしょうね?」

「おれに向かってそんなことをぬかすと、横っつらはりとばすぞ」マギンティはかっと

なってどなった。

「わかりました、議員さん」マクマードはおとなしく従った。「あやまりますよ。つい口

から出てしまったんです。あなたにまかせておけば安心だってことはわかってますよ。そ

の切り抜きをみて下さい」

 マギンティは切り抜きの記事にざっと目を通した。一八七四年の新年早々に、シカゴの

マーケット通りにある湖畔亭という酒場でジョナス・ピントウという男が射殺された、と

ある。

「おめえの仕わざか?」マギンティは切り抜きを返しながらきいた。

 マクマードはうなずいてみせた。

「なぜ殺 や ったんだ?」

「おれはドルをつくってお国の仕事を手伝ってたんですよ。もっとも、おれのつくったの

は政府のやつより金の質はおちるかもしれませんが、でも見たところはそっくりで、しか

も費用はこっちのほうが安い。で、このピントウって男はおれを手伝ってそのにせ金をば

らまいて――」

「なんだって?」

「まあ、つまり、そのドルを流通させることです。ところがこの男が急にさつ ヽヽ にばら

すっていいだしやがったんです。もうしゃべったあとかもしれない。とにかくおれとして

はぐずぐずしているわけにはいかなかった。で、あっさり殺ってしまって、この炭坑地帯

へ逃げこんだってわけです」

「なぜこの炭坑地帯を選んだ?」

「なんでもこのあたりじゃ、あまりうるさいことはいわないとか、新聞で読んだことがあ

るもんで」

 マギンティは声をたてて笑った。


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11/28 16:42