サルタビコの先導
降臨を控える神々の前に立ち塞がった異形神の意図とは?
◆葦原中国への道筋に立ち塞がった神が地上へと導く
国くに譲ゆずりを成功させた高たか天あまの原はらでは、アマテラスの子アメノオシホ
ミミが葦あし原はらの中なかつ国くにへと降臨する準備が整えられていた。そんなさな
か、アメノオシホミミとタカミムスヒの娘との間にアメニキシクニニキシアマツヒコヒコ
ホノニニギノミコトが生まれる。「アメニキシクニニキシ」とは天地が栄える意味であ
り、「ホノニニギ」は穀物が豊かに実るさまである。そのため、アメノオシホミミは降臨
には息子がふさわしいとアマテラスに告げる。
こうして、降臨する神をアマテラスの子から孫へと変えて、一行が天降ろうとすると、
高天原から葦原中国までを照らす神が立ち塞がっていた。『日本書紀』には、身長が約一
二メートル、鼻の長さが約一メートルもあり、口と尻が輝き、目はらんらんと赤く輝くと
いうその神の異形の様相が記されている。アマテラスは、にらみ合いでは負けないと評判
のアメノウズメに確かめに行かせた。するとその神は「自分はサルタビコという国くにつ
神かみであり、降臨の先導をしたいとまかりこしました」との返事。一行は、このサルタ
ビコの先導で地上へと向かうのである。
サルタビコは貝に挟まれて溺れかける逸話から、伊勢の海あ人まの神だとも言われる
が、天てん孫そん降こう臨りんに後日談がある。当初はにらみ合ったサルタビコとアメノ
ウズメだが、天孫の命でアメノウズメがサルタビコを伊勢まで送る。そしてサルタビコは
五い十す鈴ず川の上流に鎮座した。これが現在、伊勢神宮の近くにある伊勢猿さる田た彦
ひこ神社の起源といわれ、道案内の神として崇あがめられている。また、アメノウズメも
サルタビコの名を受け継ぎ猿さる女めの君きみの姓を賜った。猿女氏にとって、アメノウ
ズメは祖神であり、サルタビコは姓氏の祖となった神ということになる。こうした根拠か
ら二神は本来、伊勢出身の土豪の兄妹であったとも伝えられる。