山幸彦と海幸彦
海神の力を得て兄を屈服させた末弟
◆兄の怒りを買った弟は海神の後ろ盾を得る
コノハナノサクヤビメが命がけで生んだ三人の子供、ホデリ、ホスセリ、ホヲリ。この
三兄弟うち兄ホデリは魚を採って暮らし海幸彦と呼ばれた。また、末弟ホヲリは山の獲物
を採って暮らし山幸彦と呼ばれた。だが、ホヲリは兄の仕事が気になって仕方がない。そ
こで狩りの道具を交換してもらうよう、兄に懇願する。
ようやく兄の承諾をもらい自分の弓矢と兄の釣り針を交換したホヲリは、意気揚々と海
へと出かけた。ところが、漁は失敗に終わったばかりか、大事な釣り針までなくしてしま
う。彼は代償を払って許しを乞おうとしたが、兄は同じものを返せと譲らず、ホヲリは困
り果ててしまう。彼が海辺で途方に暮れていると、そこへ潮の神シホツチが現われた。
シホツチはホヲリに対し、ワタツミの宮へ行き、ワタツミの娘の協力を仰ぐよう助言を
した。ホヲリはこれに従って、シホツチが作った小さい籠の舟に乗り、潮流に身を任せ
た。
やがてたどり着いたのは海の彼方にあるワタツミの宮殿。ホヲリがゆつ香木かつらの木
に登って待っていると、そこへ侍女からの報告を受けたワタツミの娘トヨタマビメがやっ
てきた。この瞬間ふたりは恋に落ち、結ばれたのだった。
その後ふたりは幸せな結婚生活を送るものの、三年を過ぎた頃からホヲリはしきりに物
思いにふけるようになる。やがて心配したトヨタマビメに促されるようにして、ホヲリは
故郷への思いと、兄との確執についてワタツミに語る。するとワタツミは八方手を尽くし
て、赤鯛の喉の中に刺さっていた釣り針を見つけ出してくれた。さらに、兄に釣り針を返
す際、「この針は、おぼ鉤ち、すす鉤、貧鉤、うる鉤」と呪いの言葉を言うように指示
し、反抗してきた兄を、潮の満干を左右する塩しお盈みつ珠たまと塩しお乾ふる珠たまと
いうふたつの珠を用いて打ち破るよう、ホヲリに助言したのだ。
これらを手土産にワニに乗って地上に帰った彼は、言われた通り、呪いの言葉を唱えて
釣り針を兄ホデリに返した。さらにホデリが高い地に田を造れば低い地に、低い地に田を
造れば高い地に造った。するといつも弟は豊作だが、兄の田は水回りが悪く不作ばかりで
次第に困窮していく。怒った兄はホヲリを攻撃してきた。そこでホヲリが塩盈珠を使う
と、たちまち洪水が起こり、兄は溺れてしまう。兄が許しを乞うと、今度は塩乾珠を用い
て兄を助けた。ついに兄は降参し、ホヲリに仕えることを誓う。ホデリの子孫は弟の子孫
を守ると約束し、彼は隼はや人との祖となった。