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第二部 第十章 ヴァーミッサ三四一支部(2)
日期:2024-01-18 16:51  点击:232

 土曜日の晩に、マクマードはあらためて正式に支部に紹介された。彼は、すでにシカゴ

で入会をすませているのだから式などはなしですませられるものと思っていた。ところが

ヴァーミッサには独自の儀式があって、それがみんなの自慢の種になっており、入団志願

者は誰でもそれを経なければならなかったのである。集会は、ユニオン・ハウスの中にあ

る大会議室で行われた。ヴァーミッサのこの集会には六十人ばかりが集まったが、それは

けっしてこの組織の全勢力を結集したものではなかった。この谷だけでもほかにまだいく

つかの支部があったし、谷をはさむ山々の向こうにもいくつかあって、いざというときに

はたがいに団員を融通しあって、地元に顔を知られていない者に手をくださせたりしてい

た。炭坑地帯にちらばっている団員たちをあわせると、少なくとも五百人はこえていた。

 殺風景な集会室に、男たちは長いテーブルをかこんで集まった。かたわらにはテーブル

がもうひとつ置いてあり、酒びんやグラスがところ狭しと並んでいて、一座のなかにはは

やくもそちらのほうへ目を向けている者も何人かいた。首座についたマギンティは、まっ

黒なもじゃもじゃ頭に黒ビロードの平たいふちなし帽をかぶり、首から下はきらびやかな

紫の祭服にすっぽり包んで、さながら悪魔の儀式を主宰する僧侶のようだった。彼の左右

には支部の幹部たちが居並び、そのなかにはテッド・ボールドウィンの残忍さを漂わせた

男前の顔もみえる。これらの連中はみんな、それぞれの役職をあらわすスカーフとかバッ

ジなどをつけていた。

 彼らはほとんどそれ相当の年ごろの男たちだったが、あとの連中は十八から二十五くら

いまでの若者ばかりで、年長者の命令とあればどんなことでもすすんでやってのける連中

だった。年のいった男たちのなかには、みるからに残忍凶悪な面 つら がまえをしたものも多

くみうけられたが、下っぱの若い連中をみると、どれもみなひたむきであどけない顔つき

ばかりで、こういった若者たちが、じつはまぎれもない恐ろしい殺し屋たちで、性根まで

が腐りきってしまったあげく悪事に熟達することをひたすら誇りに思い、いわゆる「お掃

除」で名をあげた人物を心から尊敬しているなどとは、ほとんど信じられないくらいだっ

た。彼らのゆがんだ性質にしてみれば、彼らに何の危害も加えたことのない、そして多く

の場合彼らが顔もみたことのない人々を「掃除」する仕事をかってでることは、勇ましく

男らしいふるまいなのだった。仕事をなしおえると、彼らは誰が致命傷をあたえたかを口

論し、殺された男の悲鳴や苦悶の表情をまねてみせあっては面白がるのである。

 最初のころは、事をおこなうにあたって人目を忍ばないでもなかったが、この物語の時

期になると、あきれかえるほど公然とおこなうようになっていた。それというのも、法の

追求を何度も免れているうちに、誰も彼らに不利な証言をあえてしようとする者はいない

ことや、逆に自分たちに都合のよい証人ならいくらでもくりだせること、さらには、いざ

となれば金にものをいわせてアメリカでも指折りの有能な弁護士をやとうことができるの

だということを、はっきりと知ったからである。暴虐のかぎりをつくしていながらこの十

年の長き間にわたって有罪になった者はひとりとしてなく、スコウラーズにとって唯一の

脅威があるとすればそれはむしろ被害者そのひとで、それというのも、いかにこちらが数

においてまさり、かつ不意を襲ったにせよ、ときにはこちらが傷を負うこともなくはな

かったからである。

 マクマードはちょっとした試練が待ちうけているということをきかされてはいたが、そ

れがどんなものであるかは、誰もあかしてはくれなかった。彼はまず、いかめしい顔をし

たふたりの同志によってとなりの部屋に連れ出された。板仕切りごしに集会室でいろんな

声がぼそぼそいっているのがきこえてくる。一、二度、そのなかに自分の名前がでてきた

ので、彼の入団について議論されているのがわかった。するとそこへ、金と緑の飾帯を肩

からかけた衛士 えいし がはいってきた。

「なわでしばり目隠しをして連れてこいとの支部長の命令だ」彼がいった。

 それから三人がかりでマクマードの上着をぬがせ、右腕のそでをまくりあげて、両腕と

もひじから上を縄でからだにしっかりしばりつけてしまった。つぎに厚い黒の頭巾 ずきん を

すっぽりと鼻のところまでかぶせたので、彼は何も見えなくなってしまった。それから集

会室へ連れていかれた。

 頭巾のせいで、まっ暗で重苦しい。まわりで人の動く気配がし、何やらひそひそとしゃ

べっているのがきこえてきたが、やがてマギンティの声が、頭巾を通して彼の耳に遠くか

らぼんやりとひびいてきた。

「ジョン・マクマード」その声がいった。「おまえはまえから『自由民団』にはいってい

るのか?」

 彼はうなずいた。

「シカゴの二九支部とかいったな?」

 彼はふたたびうなずいた。

「暗い夜はいやなもの」声がいった。

「しかり、旅するよそ者たちには」彼が答えた。

「暗雲たれこめたり」

「しかり、あらしは近し」

「みんな異存はないか?」支部長が一同にきいた。

 同意の声が一斉にささやかれた。

「同志よ、いまかわした合言葉でおまえがわれわれの一員であることははっきりした」マ

ギンティがいった。

「だがな、いいか、この土地にはこの土地の流儀ってものがあり、また義務ってものが

あってな。これも勇気をためすためでな。覚悟はできてるか?」

「ええ」

「度胸はあるほうか?」

「ええ」

「ならその証拠に、一歩前へ出てみろ」

 そういわれたとたん、彼は両目に固くとがったものが突きつけられたのを感じたので、

少しでも前へ踏みだしたら両目がつぶされてしまいそうな気がした。それにもかかわら

ず、彼は勇気をふるい起こして、いさぎよく一歩前へ踏み出した。すると、目に突きつけ

られていたものがすっと消えてしまった。賞賛のつぶやきが一斉にもれた。

「いい度胸だ」声がいった。「では苦痛には耐えられるか?」

「人並みにはね」彼が答えた。

「試してやれ!」

 するといきなり、二の腕を激痛がつらぬいたので、悲鳴をあげまいとするのがせいいっ

ぱいだった。突然のショックで気が遠くなりそうだったが、くちびるをかみしめ、手を固

く握りしめぐっとこらえた。

「まだもの足りないくらいだ」彼はいった。

 こんどは賞賛のどよめきが起こった。入団にあたってこれほどりっぱな態度をつらぬい

た者は、いまだかつてこの支部にはいなかった。彼はさかんに肩をたたかれ、誰かが頭巾

をぬがしてくれた。彼は目をしばたたいてほほえみながら、みんなの祝福を浴びて立って

いた。


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09/30 11:37