そうして、おれはおまえたちの腐りきった支部へはいって、会議にも顔をだすように
なった。だからおそらく、おれもおまえたちと同罪じゃないかというやつがでてくるだろ
う。だがこうしておまえたちをつかまえてしまったのだから、いいたいやつには好きなよ
うにいわせておくさ。しかし事実はどうだったかな? おれが入団した晩に、おまえたち
はスタンガー老人を襲った。あのときはあいにく時間がなかったので、まえもってあの老
人に警告してやることができなかったのだが、しかしボールドウィン、おまえがあの男を
殺しかねないのをみてとめにはいったのは、このおれだったはずだぜ。たしかにおれはい
ろんな悪事を提案したかもしれないが、それはあくまでもおまえたちの信用を得るために
したまでのことで、どれもこれもおれが未然に防げる自信のあるやつばかりだったのさ。
もっともダンとメンジスの件だけは情報をしっかりとつかんでいなかったので、助けてや
ることができなかったのだが、あのふたりを殺したやつは必ず絞首台に送ってやる。チェ
スター・ウィルコックスのときは、まえもって知らせてやれたので、おれがあの男の家を
爆破する前に家族をつれて無事避難することができたってわけさ。そのほかおれの防ぎき
れなかった犯罪も少なくなかったが、でもいまから振りかえってみて、ねらった相手が別
の道を通って帰ったり、家を襲ってみると町へ出ていて留守だったり、出てくるのを表で
待っていたら家にとじこもったままだったり、そういったことが何度あったことか、よく
思い出してみるがいい。あれは全部、このおれがやったことなのだ」
「この裏切者め!」マギンティが歯ぎしりをしてののしった。
「いいとも、ジョン・マギンティ、それで気持ちがおさまるのだったら、なんとでもいう
がいい。おまえら一味はいままでずっと神に背き、この土地の人々の敵だったのだ。おま
えらに苦しめられている哀れな人たちを、誰かが勇気をだして救ってやらねばならなかっ
た。それには方法はひとつしかなかった。そしておれはそれをやりとげたのだ。おまえは
おれのことを『裏切者』というが、人々を救わんがためにあえて地獄の底まで降りていっ
たおれのことを『救いの主』と呼んでくれる人も、かなり大勢いるはずだ。おれはその仕
事に三ヵ月費やした。ワシントンの大蔵省の金を自由に使っていいといわれたって、もう
二度とこんなことをするのはごめんだ。おまえらの秘密から何からすべてをこの手ではっ
きりつかむまでは、おれはこの土地にしがみついていなければならなかったのだ。おれの
秘密がばれそうになっていることを知らなかったら、もう少し待ってようすをみていたは
ずだ。ところが、おれの正体をあかしかねない一通の手紙がこの町に舞いこんできたの
だ。もうぐずぐずしてはいられなかった。そこですぐさま行動に移ったってわけさ。もう
これ以上おまえらに話すことはないが、最後にひと言、おれが死ぬときがきたら、この谷
でなしとげた仕事のことを思い出せば心おきなく死ねるだろう、とだけいっておく。さ
あ、マーヴィン、お待たせしたな。みんなを呼び入れて、さっさと仕事をすませてくれ」
もう語るべきことはあまりない。スキャンランはマクマードから、エティ・シャフター
嬢のところへ届けてくれと、封書を一通わたされていた――彼は目くばせをすると、にや
りと笑ってひきうけたのだった。つぎの朝早く、ひとりの美しい女性と顔をすっぽりと包
んだ男が、鉄道会社が特別に仕立ててくれた列車に乗りこむと、この危険な土地を誰にも
じゃまされることなくすばやく去っていった。これを最後に、エティもその恋人も二度と
この恐怖の谷に足を踏み入れることはなかった。十日後、二人はシカゴで、ジェイコブ・
シャフター老人の立ち会いのもとに、結婚式をあげた。
スコウラーズの裁判は、残党の動きから法の尊厳を守るため、遠く離れた土地で行われ
た。連中はむだな悪あがきを必死にこころみた。支部の資金――付近一帯から恐喝によっ
て巻きあげた金だが――を湯水のように使って、仲間を助けようと必死になったが、所
詮、悪あがきにすぎなかった。連中の生活、組織、悪事のすみずみまで知りつくしている
ひとりの男の冷静で明晰な、感情をまじえない陳述は、連中の弁護人のいかなるこじつけ
によってもゆらぐことはなかった。長い年月ののち、ついに一味は滅び去るときがきたの
だ。谷をおおっていた暗雲は、永遠にはらいのけられた。マギンティは最後がくると、泣
き喚きながら絞首台の上で露と消えた。八人の主だった部下も彼と運命をともにした。五
十人あまりの者が、長短さまざまの懲役に処せられた。バーディ・エドワーズの仕事はこ
うして完了した。
ところが、彼の懸念していたとおり、勝負はまだ終わっていなかったのだ。ひとつ、ま
たひとつと、いつ果てるともなくつづくのだった。テッド・ボールドウィンが絞首刑をま
ぬがれたこともそのひとつだった。ウイラビー兄弟もそうだったし、ほかにも凶悪きわま
りない連中が何人か、死をまぬがれていた。十年間、彼らは世間から隔絶されていたが、
ふたたび自由に歩ける日がやってきた――連中をよく知るエドワーズが、これでもはや自
分の生活に平和はありえない、と覚悟をきめる日がやってきた。彼らは、エドワーズを血
まつりにあげて同志の復讐をとげようと、およそ神聖に思えるあらゆるものにかけて、誓
いあった。そして、その誓いの実現のために必死の努力をつづけた。彼はシカゴから追わ
れるようにして逃げた。二度もあやうく殺されそうになり、三度目は必ずやられるにちが
いないと確信したからである。シカゴをあとにした彼は、名を変えて、カリフォルニアへ
と移った。そこで妻のエティに死なれ、しばらくは生きる意欲を失った。しかしここでも
また殺されそうになり、ふたたび名をダグラスと改めて、人里離れた峡谷に移り住み、そ
こでバーカーというイギリス人と組んで働き、ふたりしてかなりの財産を築きあげた。だ
がここでもついにまた、血に飢えた犬どもにかぎつけられてしまったことを知らされ、急
いでイギリスへ渡って、かろうじて難をのがれた。そしてここに、ジョン・ダグラスとい
う名の男が現われることとなったのである。彼はよき伴侶を得て再婚し、サセックス州の
田舎紳士として五年間、平和な生活をおくってきた――その平和な生活が、われわれの知
るにいたったような奇怪な出来事によって突如断ち切られることとなったのである。 分享到: