ミケツオホカミ
神に名を与えられた御子に注がれる寿ぎの酒
◆御子は角鹿にて禊を行なう
無事、御子を守りきったタケウチノスクネは禊みそぎのために御子を連れて北陸は角つ
ぬ鹿が(敦賀)へと向かう。するとある日、タケウチノスクネの夢にこの地に鎮座するイ
ザサワケノオホカミが現われ、御子と名を取り替えたいと告げた。
スクネが了承すると、その神からは明日の夜明けに浜に来れば、名を替えたしるしに贈
り物を差し上げようとの返事。その言葉通り翌朝、浜に向かったところ、鼻先の傷ついた
イルカが寄り集まっていた。御子はたくさんの魚「御み食けの魚な」をもらったと喜ぶ。
そのためこの神を称えてミケツオホカミと名付けたという。また、この後の伝承で御子は
ホムダワケと呼ばれるようになる。ミケツオホカミが告げた「名を替える」というのは、
「名を与える」ことを意味すると考えられている。こうして御子は神に名を授かり、天皇
たるにふさわしい力を身につけたのである。
さて御子が都へ帰還すると、母のオキナガタラシヒメが「待まち酒ざけ」を用意してお
り、歌とともに奉った。
この御み酒きは 我が御酒ならず 酒くしの司かみ 常とこ世よに坐います 石いは
立たたす 少すく名な御み神かみの 神かみ寿ことほき 寿き狂くるほし 豊とよ寿ほ
き 寿きもとほし まつりこし 御酒ぞ
あさず飲をせ ささ
御子の代わりにタケウチノスクネが返答する。
この御酒を 醸かみけむ人は その鼓 臼に立てて 歌ひつつ 醸みけれかも 舞ひつ
つ 醸みけれかも この御酒の 御酒の あやに 甚うた楽し ささ
これは酒さか楽くらの歌と呼ばれ、酒で歓待する歌、それに感謝する歌として、宴席な
どで歌われたようだ。それと同時に即位に欠かせない儀礼であった。行幸、待酒ともに即
位に向けた儀式だったのである。