オホヤマモリとオホサザキ
御子たちの人生を決定づけたホムダワケの質問
◆比喩的な質問で後継者を決める
ホムダワケ(応神天皇)には多数の御子がいたが、有力な皇位継承者はオホヤマモリ、
オホサザキ、ウヂノワキイラツコの三人だった。
天皇はそのなかでも末子のウヂノワキイラツコをかわいがり、この子に皇位を継がせた
いと考える。この御子はホムダワケが近ちかつ淡あわ海み(近江)国に行幸した際、ミヤ
ヌシヤカハエヒメを見み初そめてできた子であり、大変かわいがっていたのである。そこ
でふたりの兄たちに「年上と年下の子は、どちらがかわいいと思うか」と問うた。天皇が
末子への相続を考えているのだから、質問の答えは当然「年下の子」である。ところがオ
ホヤマモリはこの意図に気がつかない。「年上の子」と答えた。
一方、聡明なオホサザキは父の真意を読み取る。「年上の子は成人しているので心配あ
りませんが、年下の子は成人していないため心配ですから、そちらがかわいいと思いま
す」と答える。
ホムダワケはオホサザキの答えに満足し、ウヂノワキイラツコを世継ぎとし、オホサザ
キはその補佐役、オホヤマモリは海と山の支配者と取り決めて崩御した。
孝心の篤いオホサザキはその後、父ホムダワケの意に沿うように仕えた。そんなオホサ
ザキだからこそ、父の召そうとしたカミナガヒメに恋したときも、奪ったり、こっそり求
婚したりはしない。自分に賜るよう父にお願いしてほしいとタケウチノスクネに頼み、礼
節をもって行動している。こうした事例のひとつひとつが天皇の道徳性の体現として描か
れている。
また、ホムダワケの治世には、数多くの渡来人が先進技術を手に来日していた。阿あ直
ちの史ふひとの祖アチキシや、『論ろん語ご』を持参したワニキシ、秦はた氏や漢あやの
直あたいの祖などが渡来したという。新しい渡来文化が入り、急速に日本は変貌しつつ
あった。