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赤毛連盟(4)
日期:2024-01-29 14:01  点击:250

 これが毎日続いて、土曜日になるとダンカン・ロスさんがやってきて、一週間分の賃金

だといってソブリン金貨を四枚、その場で支払ってくれました。つぎの週も同じで、その

つぎの週も同じでした。毎朝、十時にそこへいって、二時に帰るんです。そのうちロスさ

んは午前中に一回しか来なくなりました。さらに、しばらくすると、まったく来なくなっ

た。それでももちろん、わたしはちょっとでも部屋から出ていったりしませんでしたよ。

いつロスさんがやってくるかわかりませんから。自分の都合にぴったりの、いい仕事です

から、それを失うような危険は冒したくなかったのです。

 こうして八週間がすぎ、わたしはAbbot...Archery...Armour...Architecture...AtticaとAの項を

書き進め、もうすぐBの項に進めるな、などと考えて精を出していました。紙代だけでも

かなりしましたよ。わたしの書いたもので、もうすぐ棚が一段埋まるくらいになりまし

た。それが急に、なにもかもおしまいになってしまったんです」

「おしまいになった?」

「そうです。つい今朝がたのことです。いつものように十時に仕事場に着きますと、事務

所の扉が閉まって鍵がかかっているのです。おまけに扉の真ん中らへんに、小さな四角い

厚紙が、画が鋲びようで張っつけてあったんです。これがそれです。見てください」

 ウィルスン氏は一枚の白い厚紙をかかげて見せた。大きさは便びん箋せんくらいで、つ

ぎのように書いてあった。

赤毛連盟は解散します。

一八九〇年十月九日

 シャーロック・ホームズとぼくは、この短い告示と、そのうしろの悲しそうな顔をじっ

と見つめた。すると、この事件のこっけいさに、もろもろの問題もしばし忘れて、二人と

も思わず吹き出してしまった。

「なにがそんなにおかしいんですか」依頼人は大声でいった。顔は、燃えるような髪のは

えぎわまで真っ赤になっている。「あなたがたは、わたしを笑うことしかできんのです

か。だったらもうよそへいきます」

「いやいや」ホームズは腰を浮かしかけた依頼人を押しもどして椅子にすわらせた。「わ

たしはどんなことがあっても、今回の事件を手放すつもりはありませんよ。まったく、目

が覚めるほどおかしな事件だ。しかし、こういっては申し訳ないが、こっけいな面もあり

ます。どうぞ、このお知らせが扉に張ってあったのを見てどうされたか教えてください」

「そりゃ、あわてましたよ。どうしていいかわからなかった。そこで近くの事務所をきい

てまわったんです。だが、この件について知っていそうな者はひとりもいない。最後に家

主のところへいきました。家主というのは会計士でして、同じ建物の一階に住んでいま

す。赤毛連盟はどうなったのかとわたしはたずねました。すると家主は、そんな団体は聞

いたこともないというんです。そこでダンカン・ロスさんのことをたずねると、その名前

も聞いたことがないといいます。

『いや、四号室の紳士ですよ』わたしはいいました。

『なんだ、あの赤毛の男性ですか?』

『そう』

『あの人ならウィリアム・モリスという名前です。事務弁護士をされていて、新しい事務

所の用意ができるまで、一時的にあの部屋を使っておられたんですよ。きのう、出ていか

れました。』

『どこにいったんです?』

『新しい事務所でしょう。住所を教えてくれましたよ。セント・ポール大聖堂の近くのキ

ング・エドワード街一七番地です』

 わたしはすぐに出かけましたよ、ホームズさん。しかしその住所に着いてみると、そこ

は人工膝しつ蓋がい骨こつの製作所で、そこの者は全員、ウィリアム・モリスという名も

ダンカン・ロスという名も聞いたことがないというんです」

「それでどうなさったんです?」ホームズがきいた。

「そこでわたしはサクス・コウバーグ・スクエアの家へ帰り、スポールディングに相談し

ました。しかしスポールディングにもいい知恵が浮かぶはずがありません。待っていたら

郵便ででも知らせがあるんじゃないかというくらいでした。しかしわたしはそれだけでは

気がすまんのですよ、ホームズさん。あんなにいい仕事を、みすみす手放したくない。そ

こで、困っている人を助けてくださるっていうお噂をうかがってこうしてやってきたわけ

なんです」

「それは賢明なご判断でしたね。あなたの事件は非常に珍しいものです。喜んで調査させ

ていただきますよ。いままでうかがったかぎりでは、ひょっとするとこの事件は見かけに

よらず、重大な問題をはらんでいるかもしれない」

「そりゃ重大ですよ!」ジェイブズ・ウィルスン氏はいった。「なんたってわたしは週に

四ポンドの仕事を失ったんですからな」

「それはウィルスンさんの個人的な問題でしょう。しかしわたしとしては、ウィルスンさ

んがそのおかしな連盟に不満を抱く理由がよくわかりませんね。それどころか、三十ポン

ドあまりも稼がせてもらったうえに、百科事典のAのところに出てくる項目について、詳

細な知識まで得られたんでしょう。あなたはその連盟からなんの損害も受けていない」

「それはまあそうです。しかしわたしは連中を見つけて、その正体を知りたいし、こんな

いたずら──いたずらといえるのかどうかわかりませんが──を仕掛けた目的を知りたい。

彼らにとってはえらく高くつく冗談ですよ。なにしろ三十二ポンドも払ってるんだから」

「われわれは、そういう点についてもあきらかにするよう努力しますよ。そこでまず、ひ

とつふたつ質問させてください。ウィルスンさんのところの店員が最初にこの広告のこと

を教えてくれたんですよね。その店員はいつごろからいるんです?」

「赤毛連盟の広告が出る一ヶ月ほど前からです」

「どうやってお宅に雇われたんです?」

「募集広告を見て、応募してきたんです」

「応募者はひとりでしたか?」

「いいえ、十人以上いました」

「なぜその男を選んだのです?」

「役に立ちそうだったし、安い給料でいいというので」

「たしか、ふつうの半分でしたよね」

「はい」

「どういう人物ですか、そのヴィンセント・スポールディングというのは?」

「小柄でがっしりしてまして、とても頭の回転が速いんです。ひげははやしてないです

が、三十はいってると思います。おでこに酸を浴びた跡のようなしみがあります」

 ホームズは椅子のうえで急に背筋をのばした。ひどく興奮しているようすだ。



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09/30 07:15