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赤毛連盟(8)_シャーロック・ホームズの冒険(冒险史)_福尔摩斯探案集_日语阅读_日语学习网
日期:2024-10-24 10:29  点击:3334

「無駄な抵抗はやめろ、ジョン・クレイ」ホームズが冷ややかにいった。「もう逃げられ

ない」

「そのようだな」相手も精いっぱいの冷静さでいう。「だが、仲間は逃げおおせたらし

い。服の端だけつかまったようだがな」

「やつなら扉のところで三人の刑事がお出迎えだ」ホームズはいった。

「なるほど、えらく手回しがいいな。ほめてやるぜ」

「おまえもなかなかのもんだよ」ホームズは言い返した。「赤毛連盟のアイデアは、すご

く斬ざん新しんでインパクトがあった」

「仲間にはすぐ会えるぞ」ジョーンズがいった。「穴もぐりにかけてはずいぶんすばしこ

いやつだったな。さあ、手を出せ。手錠をかけてやる」

「その汚い手でおれに触らないでもらいたいね」手錠がはまると犯人はいった。「あんた

らは知らんかもしれんが、おれは王族の血を引いているんだ。話しかけるときは『様』で

もつけて、『おそれいりますが』とかいってもらいたいね」

「わかった」ジョーンズは目を丸くして苦笑いしながらいった。「では殿下、おそれいり

ますが、一階まであがっていただけますか。そこから馬車で警察までお送りしますから」

「いいだろう」ジョン・クレイは落ち着きはらっていい、われわれ三人にさっと一礼して

から、刑事に付き添われて静かに歩いていった。

「どうも、ホームズさん」われわれが続いて地下室から出ていくとき、メリーウェザー氏

がいった。「当銀行は、あなたになんとお礼をいったらいいのか、どうやってご恩返しを

したらいいのか、見当がつきません。これはまちがいなく、周到に練られた前代未聞の金

庫破りでした。あなたはそれを、完璧に見破って阻止されたのですから」

「ぼくは個人的に、ジョン・クレイに返してやりたい借りがひとつふたつあったんです

よ。この件では少しばかり出費もしましたので、それは銀行のほうでお払いいただきたい

と思います。しかしそれ以上は、今回の事件を経験したことで十分に報われていますよ。

この事件は多くの点で、たいへん珍しいものでしたし、赤毛連盟という驚くべき話も聞け

ましたしね」

「いいかい、ワトスン」その日の深夜、ベイカー街でウィスキーソーダを傾けながら、

ホームズは説明した。「こんどの事件では最初からはっきりしていたことがある。それ

は、例の奇妙な赤毛連盟の広告と百科事典の書き写しは、あのちょっとまぬけな質屋を毎

日数時間、家から遠ざけておくための方策にほかならないということだ。おそらく頭のい

いクレイが、仲間の赤い髪を見て思いついたんだろう。週四ポンドは質屋をおびき寄せる

餌で、連中にとってそれくらいはなんでもなかっただろう。なにしろ何千ポンドもかかっ

ているんだ。新聞広告を出して、ひとりが一時的に事務所を借り、もうひとりが質屋をそ

そのかす。そうやって毎朝、質屋がいなくなる時間を確保するんだよ。店員が半分の給料

で働きにきてるって聞いたときから、ぼくはピンときたよ。その男には、どうしても質屋

の職を確保したい強い動機があるってね」

「しかしその動機がなんなのかは、どうやってわかったんだい?」

「あの家に女でもいれば、やぼな情事くらいしか思いつかなかったかもしれない。しかし

その可能性はなかった。あの質屋はごく小さな店だし、家のなかに手の込んだ準備や出費

に見合うようなものはなにもない。だったら家の外にあるものだ。それはなにか? ぼく

は店員の写真好きと地下に消える癖を考えた。地下室! それがもつれた手がかりの一端

だった。そこでぼくはその謎めいた店員について質問し、ロンドンでも最も大胆不敵な犯

罪者を相手にしていることに気づいた。そいつが地下室でなにかやってる──毎日、何時間

もかけて、何ヶ月ものあいだ。ここでまた、それは何かと考えた。その結果、ほかの建物

へ向かってトンネルを掘っているとしか考えられなくなった。

 そこまではきみといっしょに現場を見にいったとき、すでにわかってたんだ。ぼくはス

テッキで歩道をたたいてきみをびっくりさせたね。あのときぼくは、地下室が前に向かっ

てのびているのか、うしろに向かってのびているのか、たしかめていたんだ。答は前では

なかった。そこでベルを鳴らして、店員が出てくるのを期待した。ぼくはやつとちょっと

した小競り合いをやったことがあったんだが、お互いに顔を見合わせたことはなかった。

だから顔はほとんど見なかった。ぼくが見たかったのはやつのひざだった。きみも気づい

たにちがいない。あいつのひざがどんなにすり切れ、しわくちゃになって汚れていたか。

あのひざが、長時間の穴掘りを物語っていた。残る謎は連中がなんのために穴を掘ってい

るのかということだ。ぼくは通りの角を曲がって、シティ・アンド・サバーバン銀行が質

屋の建物と隣接しているのに気づき、これで謎は解けたと感じた。コンサートのあと、き

みが馬車で帰ってから、ぼくはスコットランド・ヤードを訪れ、銀行の頭取を訪れて、あ

とはきみも見たとおりの結果となった」

「しかし連中が今夜決行するというのは、どうやってわかったんだい?」

「ああ、赤毛連盟の事務所が閉まったというのは、もうジェイブズ・ウィルスンが家にい

ても支障がなくなったというサインだろう。つまりそれはトンネルが完成したということ

だ。いったんできたら、それは早く使ってしまわないといけない。トンネルが見つかって

しまうかもしれないし、金貨が移されるかもしれないからね。しかも土曜日は、ほかの日

より都合がいい。逃げるのに二日間の余裕があるからだ。それらを考え合わせて、きっと

今夜実行するはずだと踏んだんだよ」

「みごとな推理だ」ぼくは心から感心していった。「ものすごく長い推理の連鎖だ。しか

も鎖が正しくつながっている」

「おかげで退屈がまぎれたよ」ホームズがそういってあくびをした。「ああ、もう新たな

退屈が襲ってきた! ぼくの人生は、平凡な生活から逃れるための努力で明け暮れてい

く。こういった小さな謎があるので、助かっているがね」

「きみは人類の恩人だよ」ぼくはいった。

 ホームズは肩をすくめた。「ふうん。まあ、もしかしたら少しは役に立っているかもし

れないね。ギュスターヴ・フローベル( 注・フランスの小説家。一八二一~八〇 )もジョルジュ・サ

ンド( 注・フランスの小説家。一八〇四~七六 )にこう書き送っているからね。『人物はどうでもい

い。作品がすべてだ』」


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