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青いガーネット(3)
日期:2024-01-31 23:35  点击:263

「千ポンドというのは懸賞金の額だよ。ぼくの知るかぎりでは、この宝石には裏にいろい

ろと斟しん酌しやくすべき事情があって、伯爵夫人はこれを取りもどすためなら、全財産

の半分でも投げ出すだろう」

「たしかコズモポリタン・ホテルでなくなったんだよね?」ぼくはいった。

「そのとおり。十二月二十二日、ほんの五日前だ。ジョン・ホーナーという配管工が伯爵

夫人の宝石箱からそれを盗んだとされている。彼が犯人だという証拠があまりにもはっき

りしていたので、この事件は巡回裁判にまわされることになったんだ。ここにも少し記事

が出てるはずだが」ホームズは日付を見ながら新聞をかきまわしていたが、ようやくその

うちの一枚のしわをのばし、二つに折って、記事を読みあげた。

「『コズモポリタン・ホテル宝石盗難事件。配管工ジョン・ホーナー(二十六歳)は、今

月二十二日、モーカー伯爵夫人の宝石箱から、青いガーネットとして有名な高価な宝石を

盗んだ容疑で逮捕された。同ホテルの接客係主任ジェイムズ・ライダー氏の証言による

と、事件当日、暖炉の火格子の二本目がはずれかけていたので、その修繕のためにホー

ナーを伯爵夫人の化粧室へ案内したという。ライダー氏はしばらくホーナーといっしょに

いたが、用事があってその場を離れた。ライダー氏がもどってみると、ホーナーはいなく

なっていて、衣装だんすがこじあけられ、モロッコ革の小箱が空で化粧台の上に放り出さ

れていた。その小箱は、のちにあきらかになったところによると、伯爵夫人がいつも宝石

を入れていた箱だった。ライダー氏はすぐさま急を知らせ、ホーナーは同日夜に逮捕され

た。しかし宝石はホーナーの所持品や部屋のなかには見つからなかった。伯爵夫人つきの

メイド、キャサリン・キューサック嬢は、ライダー氏が盗難を発見したときに驚いてあげ

た声を聞いて化粧室に駆け込み、そこでライダー氏が証言したとおりの状況を目撃した。

B管区のブラッドストリート警部は、ホーナーが逮捕の際に激しく抵抗し、あくまでも無

罪を主張したと述べている。ホーナーには盗難の前科があり、治安判事は即決裁判にかけ

るのを拒否して、本件を巡回裁判に付すことにした。ホーナーは取り調べ中、非常に興奮

し、最後は失神してしまったので、警察裁判所の外へ運び出された』

 ふん! 警察にできるのはこんなとこだろう」ホームズは考え込むようにいって、新聞

を投げ出した。「われわれが解決すべき謎は、空になった宝石箱とトッテナム・コート通

りのガチョウの餌袋が、どのようにしてつながっているのかということだ。いいかい、ワ

トスン、ぼくらの小さな推理ゲームは、いまや重大な犯罪に関連する調査の様相を帯びて

きたぞ。宝石はここにある。それはガチョウから出てきた。そしてそのガチョウはヘン

リー・ベイカー氏のものだ。ベイカー氏は汚い帽子の持ち主で、そのほかの特徴について

は、いまぼくが長々と説明してきみをうんざりさせたばかりだ。そこでぼくたちは、すぐ

にでもこの紳士を見つけ出して、このささやかな事件でどんな役割を果たしたのか、突き

とめにかからないといけない。そのためにまず、いちばん簡単な方法を試してみよう。つ

まり、すべての夕刊紙に広告を出すんだ。それでだめならほかの方法に頼ることにしよ

う」

「どんな広告を出すんだ?」

「鉛筆とその紙を貸してくれ。さあ、いいかい、『グッジ街の角にてガチョウと黒い山高

帽を拾得。今夕六時三十分、ベイカー街二二一番地Bにて、ヘンリー・ベイカー氏にお返

しします』。簡かん単たん明めい瞭りようだろう」

「そうだね。しかし本人がみてくれるかな?」

「いや、きっと新聞を気をつけてみてるよ。なにせ金のない人間にとっては大きな損失だ

からな。この人物はきっと、ショーウィンドウを割ってしまったこととピータースンが近

づいてきたことにおじけづいて、逃げることしか考えられなかったんだろう。しかしあと

になって、とっさにガチョウを放り出して逃げたことを後悔してるにちがいない。それ

に、名前を出すことで彼が気づく可能性が高くなる。彼を知っている人間が、みんな彼に

教えるだろうからね。さあ、ピータースン、これを至急広告代理店へ持っていって、夕刊

にのせてもらってくれ」

「どの新聞ですか?」

「そうだな。グローブ、スター、ペルメル、セント・ジェイムズ、イヴニング・ニュー

ズ、スタンダード、エコー、そのほかきみが思いつく新聞すべてだ」

「承知しました。で、この宝石はどうします?」

「ああ、そうだった、それはぼくが預かっておこう。ありがとう。それとピータースン、

帰りにガチョウを一羽買ってここへ届けてくれないか。この紳士に、きみの家族が平らげ

たガチョウの代わりを渡さないといけないからな」

 ピータースンは出かけ、ホームズは宝石を取りあげて、光にかざした。「みごとな石

だ。ほら、こんなにきらきら輝いている。犯罪のターゲットになるのも無理はないね。上

質の宝石はみんなそうだ。悪魔の好む餌だよ。もっと大きくて古くからある宝石だった

ら、カットの面の数と同じくらいの数の血なまぐさい事件が起こっているだろう。だがこ

の宝石は、見つかってまだ二十年もたっていない。中国の南にあるアモイ川の沿岸で発見

されたんだ。この石が注目を集めた理由は、あらゆる点でガーネットの特徴を備えている

のに、色が赤ではなく、青だったせいなんだ。発見されてからまだそんなにたたないの

に、この宝石にはすでに不吉な歴史がある。殺人が二件、硫酸を浴びせかけた事件が一

件、自殺が一件、窃盗が数件、この四十グレイン( 注・真珠、ダイヤの重量単位。四分の一カラット )

の炭素の結晶のために起こっているんだ。こんなに美しい宝石が、人を絞首台や監獄に送

り込む役目を果たしているなんて、想像もつかないだろう? さあ、この宝石は金庫に大

切にしまっておこう。それから伯爵夫人に、これがみつかったことを手紙で知らせよう」

「このホーナーという男は無実なのかい?」

「まだわからないな」

「じゃあ、ヘンリー・ベイカーのほうは、この宝石の事件に関わっていそうかい?」

「ぼくの考えでは、ヘンリー・ベイカーのほうはまったくなにも知らないという気がする

な。自分が持ち歩いていた鳥が、金の鳥よりずっと価値があるなんて、夢にも思ってな

かっただろう。しかしそのことも、ごく簡単に確認できる。本人があの広告に応じてやっ

てきたらの話だが」

「それまではなにもすることがないのかな?」

「なにもないね」

「それならぼくは、ひとまず往診にいってこよう。しかし夕方、広告の時刻にはもどって

くるよ。こんなに入り組んだ事件が解決するところをぜひみたいからね」

「ぜひそうしてくれ。夕食は七時だ。きっとヤマシギが出ると思うよ。しかし、今回のよ

うなことがあるんなら、ハドスンさんに、料理するときには餌袋をよく調べるようにいっ

ておいたほうがいいかもしれんな」

 ぼくは往診で、ある患者に手間取り、ベイカー街にもどったときには六時半を少し過ぎ

ていた。ホームズの下宿に近づくと、スコッチ帽をかぶって、コートのボタンをあごの下

まできっちりとめた背の高い男性が、玄関の明かり取りからもれる扇型の光のなかで立っ

ていた。ぼくが玄関先に着いたとき、ちょうど扉があき、ぼくとその男性はいっしょに

ホームズの部屋へ案内された。


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