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まだらのひも(4)_シャーロック・ホームズの冒険(冒险史)_福尔摩斯探案集_日语阅读_日语学习网
日期:2024-10-24 10:29  点击:3336

てですか?」ホームズはいった。

「はい、すべてお話ししました」

「そうではないでしょう、ストーナーさん、あなたはお父さんをかばっておられる」

「え、どういう意味ですか?」

 ホームズは答えのかわりに、客がひざの上にのせた手を覆っている黒いレースの袖そで

飾りをめくりあげた。小さな青いあざが五つ、四本の指と親指の跡を示すように、白い手

首にくっきりとついていた。

「乱暴な扱いを受けているのですね」ホームズがいった。

 女性は顔を真っ赤にして、あざのついた手首を隠した。

「義父は怒りっぽいのです。たぶん自分の力の強さもわかっていないのだと思います」

 長い沈黙が続き、その間、ホームズは片手にあごをのせて、ぱちぱち音をたてる火を見

つめていた。

「これはとても難しい事件です」ようやくホームズは口を開いた。「細かい点までもっと

調べてからでないと、どういう手段をとればいいのか、決められません。しかし一刻の猶

予もできない。もしわれわれが今日、ストーク・モーランまでいったら、お父さんに気づ

かれずにお宅の寝室を見せてもらうことはできますか?」

「今日はたまたま、義父はなにか大切な用があって、ロンドンにいくといってました。た

ぶん一日中出かけていると思います。それならなにも問題はないですわ。家政婦がひとり

おりますけど、歳もいっててぼんやりしてますから、お邪魔にならないようにするのは簡

単です」

「それはよかった。ワトスン、きみもストーク・モーランまで出かけるのはかまわない

ね?」

「もちろん」

「では、われわれ二人でうかがいます。あなたはこれからどうされますか?」

「せっかくここまできましたので、ひとつふたつすませたい用事があります。でも十二時

の列車に間に合うようもどりますわ。そうすればお二人がお出でになるころには家にいら

れますから」

「では、午後早いうちに着くようにします。わたしもそれまでに片づけたい仕事がいくつ

かありますのでね。ここで朝食を食べていかれますか?」

「いいえ、もういかなければ。ホームズさんに悩みを打ち明けただけでも、だいぶ気持ち

が楽になりました。ではまた、昼にお会いするのを楽しみにしております」女性は厚地の

黒いヴェールをふたたび顔にかけて、静かに部屋から出ていった。

「どう思う、ワトスン?」シャーロック・ホームズが椅子の背にもたれながらたずねた。

「えらく陰湿で不吉な感じのする事件だね」

「陰湿で不吉このうえない」

「だがあの女性がいうとおり、床も壁も異常がなくて、扉も窓も煙突も通り抜けできない

んだったら、被害者はまちがいなくひとりでいるときに不思議な死に遭遇したとしか考え

られないね」

「じゃあ、夜中の口笛のほうはどうだい? それと、姉が死の間際にいった奇妙な言葉

は?」

「わからない」

「夜中の口笛や、義理の父親と仲のいいロマたちが敷地内にいたこと、父親には娘の結婚

を阻止したい十分な理由があること、ひもという死に際の言葉、それと、ヘレン・ストー

ナーが聞いた金物の落ちるような音、これはもしかしたらよろい戸を閉めなおすときに、

かんぬきがもとの場所にもどった音かもしれない。これらをすべて結びつけてたぐってい

けば、謎が解明される可能性は十分にある」

「しかし、それじゃ、ロマはなにをしたことになるんだい?」

「それはわからない」

「いまの説明ではいろいろと問題点が残るね」

「同感だ。だからこそぼくたちは今日、ストーク・モーランへいくんだよ。ぼくはこの目

で見たいんだ。その問題点が決定的なものなのか、それとも説明がつくものなのか。い

や、いったいなにごとだ!」

 ホームズが急にそう叫んだのは、部屋の扉がとつぜん乱暴にあいて、大男が戸口に立ち

はだかったからだ。男は、医者のようにも農民のようにもみえる、おかしないでたちをし

ていた。黒いシルクハットをかぶり、長いフロック・コートを着て、足にはひざまでの

ゲートルを巻いて、手に持った狩猟用のむちを振りまわしている。とても背が高くてシル

クハットが鴨居をかすめ、横幅も戸口の幅いっぱいを占めるかと思われるほど太い。大き

な顔はしわだらけで、日に焼けて黄色っぽくなっている。その顔は、どこからどうみても

悪意に満ちていた。ぼくとホームズを順番ににらみつけたようすは、落ちくぼんだ不機嫌

な目といい、高く骨ばった鼻といい、歳をとった凶暴な猛もう禽きん類るいの姿を思わせ

た。

「どっちがホームズだ?」とつぜん現れた男はたずねた。

「わたしです。そういうあなたはどちら様ですか?」ホームズは落ち着いていった。

「ストーク・モーランのグリムズビー・ロイロット博士だ」

「これはこれは、博士でしたか」ホームズはおだやかにいった。「どうぞおかけくださ

い」

「そんな気はない。わしの義理の娘がここへきただろう。つけてきたんだ。娘はあんたに

なにをしゃべった?」

「この時季にしては少し寒いですね」ホームズがいう。

「娘はなにをしゃべったかときいてるんだ!」老人は怒り狂ってどなった。

「しかしクロッカスの出来はいいらしいですよ」ホームズはあいかわらず落ち着いてい

る。

「くそ! とぼける気か?」新しい客は一歩前に出ると、狩猟用のむちを振った。「貴様

のことは知ってるぞ、この悪党め! 噂で聞いたことがある。おせっかい屋のホームズだ

ろう」

 ホームズはにっこりした。

「出しゃばり野郎め!」

 ホームズはますます相好をくずした。

「スコットランド・ヤードの小役人!」

 ホームズは楽しそうにくすくす笑った。「あなたの話はとてもおもしろい。しかしお帰

りになるときは扉をちゃんと閉めてくださいね。ひどいすきま風が吹きますから」

「用事がすんだらすぐ帰る。貴様はうちのことに手出しするな。娘がきたことはわかって

るんだ──あとをつけてきたんだからな! わしは危険な男だぞ。逆らわんほうがいい。ほ

ら、みてろ!」男はすばやく前に出ると、火かき棒をつかんで、大きな浅黒い両手を使っ

て折り曲げた。

「この手につかまらんように気をつけるんだな」男はどなるようにいうと、折れ曲がった

火かき棒を暖炉のなかに放りこんで、つかつかと部屋から出ていった。


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