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ぶな屋敷(3)_シャーロック・ホームズの冒険(冒险史)_福尔摩斯探案集_日语阅读_日语学习网
日期:2024-10-24 10:29  点击:3336

 ストゥーパさんはそれまでなにもいわずに書類を繰っておられたのですが、このとき、

わたしをちらりと見てとても不満そうな顔をされました。きっとわたしが断ったために、

相当な手数料がふいになったんだなと思ってしまいました。

『ハンターさんはまだ求職者名簿にお名前を登録しておきますの?』ストゥーパさんがき

きました。

『ええ、お願いします。ストゥーパさん』

『あらそう、でもそんなことをしても無駄じゃないかしら。こんなすばらしいお仕事をお

断りになるようでは』ストゥーパさんはつっけんどんにいいました。『こういう就職口を

また見つけてくれといわれても、とても無理ですからね。では、ごきげんよう、ハンター

さん』ストゥーパさんは、机の上のベルを鳴らして、わたしは事務室の外へ出されまし

た。

 ホームズさん、わたしはそれから自分の下宿へ帰ってきて、戸棚を見ますと、食べ物も

ほとんどなにもなくて、テーブルの上には請求書が二、三通のっているという有様です。

そこで、自分はとてもばかなことをしたのではないかと自問しはじめました。あの紳士の

ご家族は、好みのうるさい、風変わりな人々で、おかしなことを要求してくるかもしれな

いけれど、少なくとも、その奇妙な言動に見合うお金を払いましょうといっているので

す。一年に百ポンドもらえるような家庭教師は、国中探してもそういないでしょう。それ

に、髪の毛なんて、なんの役に立つでしょう。髪を短くしてかえって美しくなる人はたく

さんいます。もしかしたら、わたしもそのひとりかもしれません。翌日には、わたしはし

まったことをしたと後悔しはじめ、その思いが日増しに強くなっていきました。プライド

を捨てて、もう一度あの斡旋所へいき、あの仕事口がまだ空いているかどうかたずねてみ

よう。ほとんどそう決心しかけていたとき、あの紳士から直接手紙が届いたのです。ここ

に持ってきましたので、いまから読みあげますね。

ウィンチェスター郊外、ぶな屋敷より

親愛なるハンター様へ

 ストゥーパさんが特別にあなたのご住所を教えてくださったので、あなたのお考えが変

わっていないかおうかがいしたく、こうして手紙を書かせていただきました。わたしの妻

は、あなたがこられることを熱望しております。わたしが家に帰ってあなたのことを話し

ましたところ、すっかり気に入ってしまったのです。わたしどもは、四半期で三十ポン

ド、一年に百二十ポンドをお支払いして、あなたがわれわれのこだわりにおつきあいくだ

さるためにこうむるご不便の埋め合わせをしたいと考えております。こだわりと申しまし

ても、それほどやっかいな注文ではありません。妻は鋼はがね色いろというちょっと変

わった色が好みで、そういった色の服を、午前中に家のなかで着てほしいというと思いま

す。しかし、あなたがその服をご自分で買われる必要はありません。うちには、わたしど

もの娘のアリス(いまはフィラデルフィアにおります)の服がありまして、それがあなた

にぴったり合うと思います。それから、こちらが指定する場所に腰かけてくれとか、暇つ

ぶしにこれをしてくれとかいうことがありますが、それはたいしてご迷惑にはならないだ

ろうと思います。髪の毛につきましては、たいへんご迷惑なことだとお察しします。先日

の短い面接のあいだにも、あなたの髪の美しさには、ついつい見とれてしまったくらいで

すから、それは重々承知のうえですが、残念ながら、わたしどももこの点については譲歩

できません。こちらとしましては、給料の額をあげさせてもらったことで、あなたの失う

ものの埋め合わせができるよう祈るばかりです。あなたのお仕事は、子供の世話に関する

かぎり、とても楽なものです。では、ぜひともお越しくださるよう、お願いいたします。

ウィンチェスターまで、馬車にてお迎えにあがります。何時の列車でいらっしゃるか、お

知らせください。

ジェフロ・ルーカッスル

 これがつい先日届いた手紙です。それで、ホームズさん、わたしはこの話をお受けしよ

うと決めたのですが、最後の一歩を踏み出す前に、ホームズさんにすべてをお話しして、

ご意見をうかがおうと思ってまいったのです」

「なるほど。しかしハンターさん、もしあなたが引き受けることをお決めになったのな

ら、それで話はおしまいじゃないんですか?」

「でも、ホームズさんは断ったほうがいいと思われませんか?」

「正直に申し上げますと、もしわたしに妹がいたら、こういう就職先にはいってほしくな

いですね」

「このお話は、いったいどういうことなのでしょう?」

「いや、それは判断する材料がありませんから、なんともいえません。あなたご自身はど

うお考えなんです?」

「わたしに思いつくことは、ひとつだけですわ。このルーカッスルさんという方は、とて

もやさしい、人のよい方に思えます。きっと奥さまはどこかおかしくていらして、それを

隠しておこうとなさっているのではないかしら。奥さまが病院に連れていかれるのを恐れ

ておられるのでしょう。それで、奥様の発作が起こるのを防ぐために、いろいろ変わった

ことでも、好きにさせていらっしゃるのではないでしょうか」

「それは考えられますね──じっさい、いまのところ、それが最もありそうな話だ。しか

し、いずれにせよ、若い女性にとって好ましい家庭とは思えません」

「でも、お金がよろしいでしょ、ホームズさん」

「そうですね。たしかに給料はとてもいい──よすぎます。だからこそ、心配なんですよ。

四十ポンドでもいい人を雇えるのに、どうして百二十ポンド出す必要があるんです? な

にか、よほどの理由があるんですよ」

「じつは、ホームズさんに事情を説明しておけば、あとになって万一、助けが必要になっ

たときも、すぐにわかっていただけると思ったのです。ホームズさんがうしろについてい

てくださると思うと、とても心強いですから」

「ああ、それは期待してくださってけっこうですよ。あなたの抱えておられる問題は、こ

こ数ヶ月にわたしが遭遇した事件のなかでも、最も興味深いものになりそうです。この話

には、あきらかに不審な点がいくつかあります。もし疑わしいことがあったり、危険にさ

らされたりしたときは──」

「危険! どんな危険がありそうですの?」

 ホームズは重々しく首を振った。「それがはっきりわかれば、それはもう危険とはいい

ません。しかし、昼でも夜でも、電報を一本いただければ、助けに駆けつけますよ」

「それだけお聞きすれば、十分ですわ」ハンター嬢は、不安がすっかり払ふつ拭しよくさ

れたようすで、元気に立ち上がった。「これで安心してハンプシャーへいけます。すぐに

ルーカッスルさんに手紙を書きますわ。今晩髪を切って、明日あしたウィンチェスターに

向かいます」ホームズに感謝の言葉をいくつか並べてあいさつをすませると、彼女はあわ

ただしく出ていった。


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