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ぶな屋敷(5)_シャーロック・ホームズの冒険(冒险史)_福尔摩斯探案集_日语阅读_日语学习网
日期:2024-10-24 10:29  点击:3339

「まず最初に申し上げておきますが、わたしはルーカッスルさんご夫妻から、ひどい虐待

を受けたとかいうことはございません。これはご夫妻に対して公正を期すためにいってお

かなければならないと思います。でも、わたしはあの方たちのことが理解できませんし、

いっしょにいて不安なんです」

「なにが理解できないんですか?」

「あの方たちの振る舞いです。でも、なにもかも順を追ってお話ししましょう。わたしが

列車からおりたとき、ルーカッスルさんがここで出迎えてくださって、二輪馬車でぶな屋

敷までいきました。ぶな屋敷はルーカッスルさんのお話のとおり、美しい場所にありまし

たが、建物は美しくありませんでした。大きな四角い箱のような家で、漆しつ喰くいが

塗ってあるのですが、風雨にさらされ、しみだらけで雨筋の跡が浮いています。まわりの

地所は三方が森になっていて、残るいっぽうはサウサンプトン街道まで続くゆるやかな斜

面に畑が広がっています。サウサンプトン街道はぶな屋敷の玄関から百ヤードくらいのと

ころをカーブを描きながら通っています。この斜面の土地はぶな屋敷のものですが、三方

の森はすべてサザートン卿きようの領地の一部だそうです。玄関のすぐ前にブナの木立が

あって、それが屋敷の名の由来となっています。

 わたしはあいかわらず愛想のいいルーカッスルさんに連れられ、その日の夕方に奥様と

お子様に紹介されました。ホームズさん、わたしたちがベイカー街のお宅でありそうな話

として想像していたようなことは、まったくありませんでした。ルーカッスルさんの奥様

は、おかしくなってなどおりません。物静かで青白い顔をなさっていて、ご主人よりずっ

とお若くて、たぶん三十歳くらいだと思います。ルーカッスルさんは少なくとも四十五歳

はいってると思います。お二人の話から、七年前にご結婚されたようですが、ルーカッス

ルさんはその前の奥様とのあいだにひとりお子様がいらしたそうです。その方がフィラデ

ルフィアにおられる娘さんなのです。ルーカッスルさんがわたしにこっそり教えてくだ

さった話では、お嬢さんが家を出られた理由は、新しい奥様のことを、わけもなく嫌われ

たせいなのだそうです。お嬢さんはもう二十歳にもなっておられたでしょうから、父親が

若い女性を妻に迎えたことで、きっと反発なさったのでしょう。

 ルーカッスル夫人はお顔だけでなく、心まで精彩を欠くように見えました。わたしとし

ては、とくに好感がわくということも、すごくいやだということもありませんでした。と

にかく存在感のない人だったのです。それでも、ご主人やお子さんに対して、心から深い

愛情をお持ちであることはすぐにわかりました。薄いグレーの瞳ひとみで、ご主人やお子

さんのほうを絶えずうかがっては、ほんのちょっとしたことでも気づいて、できれば先ま

わりして要望をかなえてあげようとなさいます。ルーカッスルさんは率直で陽気で騒々し

い方ですが、奥様にはやさしく、おおむね幸せなご夫婦に見えました。それでも奥様はな

にかひそかに不幸を抱えてらっしゃるようでした。しょちゅう、物思いにふけり、ひどく

悲しそうな表情をなさるのです。泣いていらっしゃるのを見てびっくりしたことも一度や

二度ではありません。わたしは、奥様の心を悩ませているのは、お子さんの性格のことで

はないかと思うこともありました。あんなに甘やかされてひねくれた子供は見たこともあ

りません。体は歳のわりには小柄ですが、頭が不釣り合いに大きくて、四六時中、かん

しゃくを起こしているか、ふさぎこんでいるか、どっちかなのです。自分より弱い生き物

をいじめることが唯一の楽しみらしく、ネズミや小鳥や昆虫などをつかまえるわなをつく

ることにかけては、驚くべき才能を発揮するのです。でも、お子さんの話はこれくらいに

しておきます、ホームズさん。じっさい、お子さんはわたしのいいたいこととはほとんど

関係がないのですから」

「関係がないと思われるようなことでも、すべて詳しくお聞かせください」

「大事なことはもらさず話すつもりです。あの家でわたしがすぐに不愉快に感じたのは、

使用人の態度と行いでした。使用人は二人しかいなくて、トラーという夫婦ものです。夫

のほうは礼儀を知らない粗野な男です。頭は白髪まじりで頰ひげをはやし、いつも酒のに

おいをさせています。わたしがあの家に行ってから、もう二回もトラーがひどく酔っ払っ

ていたことがあります。それなのにルーカッスルさんはまったく気にしていないようなの

です。おかみさんのほうは背が高くてがっしりした体格で、不機嫌な顔をしていて、奥様

と同じくらい無口ですし、愛想は奥様よりずっと悪いくらいです。ほんとうに不愉快な夫

婦なんです。さいわいわたしは子供部屋か自分の部屋で過ごしていることが多いので、助

かっていますけど。子供部屋とわたしの部屋は隣接していて、建物のすみにあります。

 わたしがぶな屋敷にきてから二日間は平穏に過ぎました。三日目の朝食のすぐあと、奥

様がおりていらして、ルーカッスルさんになにかささやきました。

 ルーカッスルさんは『ああ、わかった』とおっしゃって、わたしのほうを向くと、『ハ

ンターさん、あなたが髪まで切って、わたしらの好みに合わせてくださったことにはとて

も感謝しています。しかし髪を切っても、あなたの美しさは微み塵じんも損なわれており

ませんぞ。そこで、そろそろ例の鋼色の服もあなたに似合うかどうか、見せてもらいたい

んです。あなたの部屋のベッドの上にその服を置いてありますから、すまんがそれを着て

もらえんでしょうか』

 わたしの部屋に置いてあった服は、変わった色合いの青い服でした。上等な毛織物でで

きたいい品ですが、あきらかに着古した跡があります。寸法は、わたしのためにあつらえ

たかのように、ぴったりと合いました。ルーカッスルさんも奥様も、わたしがその服を着

たのを見て、おおげさすぎるほど喜ばれました。二人は客間で待っていらしたのですが、

そこはとても大きな部屋で、建物の正面の端から端までを占め、床まで届く大きな窓が三

つついています。真ん中の窓のそばに椅子がひとつ、窓に背を向けるようにして置いて

あって、わたしはそこにすわるようにいわれました。ルーカッスルさんはその反対側を

いったりきたりしながら、いままで聞いたこともないようなおもしろい話をつぎつぎに話

しはじめました。その話のおもしろいことといったら、わたしは笑いすぎて疲れたくらい

です。けれども奥様のほうはあきらかにユーモアのセンスがないようで、くすりともせず

に、両手をひざの上に置いて、悲しげな、心配そうな表情をしてすわっておられるので

す。一時間かそこらして、ルーカッスルさんはとつぜん、もう仕事の時間だとおっしゃっ

て、服を着替えてお子さんのエドワードのところへいきなさいとおっしゃいました。

 その二日後も、同じことがまったく同じ状況で行われました。わたしはまた服を着替え

て、窓の前にすわって、ルーカッスルさんが話すおもしろい話を聞いて笑い転げました。

ルーカッスルさんはおもしろい話をいくらでも知っているようで、しかもそれをだれにも

まねのできないほど上手にお話しになるのです。それからルーカッスルさんはわたしに黄

表紙の通俗小説を手渡しました。そして、わたしの影がページに落ちないよう椅子の位置

を少しずらしてから、その本を声に出して読んでくれとおっしゃったのです。そこで、本

の途中から十分ほど読んでいきますと、とつぜん、まだ文章の途中ですのに、ルーカッス

ルさんが、もう終わりにして服を着替えるようにとおっしゃったのです。


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11/24 14:44