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ぶな屋敷(8)_シャーロック・ホームズの冒険(冒险史)_福尔摩斯探案集_日语阅读_日语学习网
日期:2024-10-24 10:29  点击:3336

 ホームズもぼくも、魔法にかかったように、この驚くべき物語に耳を傾けていた。しか

しいま、ホームズは立ち上がって、ポケットに手を突っこみ、部屋をいったりきたりして

いた。表情は真剣そのものだ。

「トラーはまだ酔いつぶれていますか?」ホームズがきいた。

「はい、トラーのおかみさんが、奥様に、だんなが手に負えないとこぼしていましたか

ら」

「それはよかった。そしてルーカッスル夫妻は今晩、出かけているんですね?」

「はい」

「屋敷には、しっかりした鍵かぎのかかる地下室はありますか?」

「はい。ワインの貯蔵庫があります」

「ハンターさん、あなたはいままで勇敢で、しかも賢明に立ちまわってこられた。どうで

す、もうひとがんばりできますか? わたしはあなたが並の女性ではないと思うからこ

そ、こんなことをお願いするのですが」

「やってみます。なにをするのですか?」

「ぼくとワトスンは、七時にぶな屋敷にいきます。ルーカッスル夫妻はそのころには出か

けているでしょうし、トラーもまた酔いつぶれていることを願いましょう。残るはトラー

の妻です。彼女が騒ぎたてないともかぎりません。なにか口実をつくって地下室へ入ら

せ、外から鍵をかけて閉じこめてください。そうすれば非常にやりやすくなる」

「わかりました」

「よかった! では、この件をじっくり検討していきましょう。もちろん、考えられる説

明はひとつしかありません。あなたはだれかの身代りになるために連れてこられたので

す。その監禁されている人物は、ルーカッスル氏の娘のアリス・ルーカッスルにちがいな

い。その娘さんはたしかアメリカにいったという話でしたね? あなたはまちがいなく、

その娘さんに似ているから選ばれたのです。背丈も体つきも髪の毛の色も。しかしアリス

の髪の毛は、おそらくなにかの病気にかかったときに、短くカットされた。だからあなた

も髪を切る必要があった。あなたは奇妙な偶然から、アリスの髪束を見つけたのです。道

にいた男性はアリスの友人にちがいない──たぶん結婚を約束した相手でしょう──あなた

はアリスの服を着て、髪も体つきもそっくりだし、いつ見ても笑っている。そしてあなた

は彼に向かって、追っ払うような身ぶりをした。そこで彼は、アリス・ルーカッスルがい

まの生活にすっかり満足し、もう自分の愛情を必要としていないのだと思った。犬は彼が

アリスと接触しようとするのを防ぐために放されていたのでしょう。ここまではほぼたし

かです。しかし今回の件で最も懸念されるのは、子供の性格です」

「いったいそれがどう関係するんだい?」ぼくは思わず声をあげた。

「ワトスン、きみは医者としてつねづね、親の性格を調べることによって子供の性格を知

る手がかりを得ているだろう? その逆もまた有効だとは思わないかい? ぼくは、子供

の性格を調べることで、その親の性格を初めてほんとうに見抜くことができたということ

がしょっちゅうある。ルーカッスルの子供の性格は、異常なくらい残忍で、純粋に残虐行

為を楽しむというものだ。これはぼくの予想では、愛想のいい父親譲りのものだろう。も

しかすると母親からかもしれないが。いずれにせよ、それは監禁されている娘にとって、

縁起のいいことではない」

「そのとおりだと思います、ホームズさん」依頼人が叫んだ。「いろいろなことが改めて

思いあたりますわ。ああ、一刻も早く、かわいそうなお嬢さんを助けてあげなくては」

「しかし、慎重にやらねばなりません。我々の相手にしているのは、非常に狡こう猾かつ

な男です。七時まではなにもできませんよ。われわれは七時にあなたと合流しますから、

そのあとはすぐに事件を解決することができるでしょう」

 ぼくたちは約束どおり、七時ちょうどにぶな屋敷に着いた。乗ってきた馬車は道端の居

酒屋に預けた。夕陽のなかで、ブナの木の濃い色の葉が磨きあげた金属のように輝いてい

たおかげで、屋敷はすぐに見つかった。ヴァイオレット・ハンターがにこにこしながら玄

関の石段の上に立っていた。

「首尾はどうです?」ホームズがきいた。

 ドンドンという大きな物音が、下のほうから聞こえた。「あれはトラーのおかみさんが

地下室で騒いでいる音です。トラーのほうは、キッチンの敷物の上で、いびきをかいて寝

ていますわ。ここにトラーの鍵束があります。ルーカッスルさんが持っているものとまっ

たく同じですわ」

「上出来ですね!」ホームズはうれしそうにいった。「では、案内してください。もうす

ぐ悪事に決着をつけられますよ」

 ぼくたちは階段をのぼって扉をあけ、廊下を進んだ。そしてハンター嬢の話にあった、

ふさがれた扉の前にきた。ホームズは縄を切って、横に渡された鉄棒をはずし、そのあと

鍵束の鍵をひとつずつ錠に差しこんだが、どれも合わなかった。なかからはなんの物音も

しない。ホームズは顔を曇らせた。

「まだ間に合うと思うが、ハンターさん、あなたはなかに入らないほうがいい。さあ、ワ

トスン、肩を貸してくれ。二人で体当たりして押し入ろう」

 その扉は古くてがたのきた扉で、ぼくたちが力を合わせるとすぐに壊れた。ぼくとホー

ムズは、いっしょになかへ飛びこんだ。が、部屋はもぬけの空だった。小さなわら布団と

テーブルと、シーツ類が詰まったかごのほかに家具はない。天窓があいていて、監禁され

た人物の姿はなかった。

「ここで悪事が行われていたんだ。あの悪人はハンターさんの狙いに勘づいて、犠牲者を

連れ去ったんだろう」ホームズがいった。

「だが、どうやって?」

「あの天窓を通ってさ。どうやったのか見てみよう」ホームズは天窓にぶらさがって、屋

根の上に出た。「ああ、これだ。軽くて長いはしごが、ここから軒に立てかけてある。こ

れを使ったんだよ」

「でも、そんなはずないわ」ヴァイオレット・ハンターが口をはさんだ。「ルーカッスル

夫妻が出かけたときには、そんなところにはしごはありませんでした」

「もどってきてやったんだろう。抜け目のない、油断ならないやつだ。きっといまもこっ

ちへ向かっている。階段で足音がするからな。ワトスン、ピストルの用意をしておいたほ

うがいい」

 ホームズのその言葉がまだ終わらないうちに、ひとりの男が部屋の戸口に現れた。でっ

ぷり太った頑丈そうな男で、手には太い棍こん棒ぼうを持っている。その男を見てハン

ター嬢は悲鳴をあげ、背後の壁に背中を預けて立ちすくんだ。シャーロック・ホームズが

前に飛び出して、男と向かい合った。

「この悪党め、娘さんをどこへやった?」

 太った男は部屋をぐるりと見渡して、最後に天窓に目をやった。


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