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ライゲイトの大地主(6)_シャーロック・ホームズの回想(回忆录)_福尔摩斯探案集_日语阅读_日语学习网
日期:2024-10-24 10:29  点击:3334

「事件の顚てん末まつを説明するにあたって、アクトンさんにも同席していただくことに

しました。当然ながら、詳しい事情をお聞きになりたいでしょうから。それにしても大

佐、僕のような疫病神が現われたせいで、とんだ騒ぎに巻きこまれてしまいましたね」

「いやいや、とんでもない」大佐は朗らかに言った。「名探偵の仕事ぶりを間近で見物さ

せてもらえるとは、またとない幸運ですよ。正直なところ、予想をはるかに上回るすばら

しい手腕でした。あなたがいったいどうやって真相を探りあてたのか、いまだに見当がつ

きませんよ。糸口すらどこにあるやらさっぱり」

「種明かしをすると、がっかりなさるかもしれませんが、僕は自分の捜査内容はつまびら

かにしようと決めているんです。友人であれ誰であれ、僕の手法に知的興味を寄せてくだ

さる方には必ず。ただその前に、さっきのカニンガム邸での格闘ですっかりへたばってし

まいました。大佐、恐縮ですが、ブランデーを一杯いただけませんか? このところ体力

が衰えていましてね」

「あの神経の発作はもう起きていないのですか?」

 ホームズは陽気に笑った。「そのへんの事情もあとで出てくるでしょう。結論に導いて

くれた手がかりをひとつずつ挙げながら、順を追って説明していきたいと思います。わか

りにくいところがあったら、いつでもそうおっしゃってください。

 探偵術において一番肝心なのは、数多くの事実を前に、どれが重大で、どれが重大でな

いかを判別する能力です。それが欠けていると的を絞ることができず、体力と知力を浪費

することになります。で、今回の場合ですが、僕は最初から、全体の謎を解き明かす鍵か

ぎは死者が握りしめていた紙片にあると確信していました。

 詳細を語る前に、ひとつ重要な点を指摘しておきましょう。アレック・カニンガムの供

述どおり、強盗がウィリアム・カーワンを撃った直後すばやく逃走したならば、この男は

被害者の手から手紙を奪い取った人物ではありえないということです。だとすれば、奪い

取ったのはアレック・カニンガム以外に考えられません。父親が二階から下りてきたとき

にはもう、使用人たちが現場に集まっていたわけですからね。きわめて単純な事実にもか

かわらず、警部はそれを見過ごしてしまいました。地元の有力者がまちがったことをする

はずはないと思いこんでいたからです。しかし、僕はつねにいかなる先入観にもとらわれ

ず、事実のおもむくままに進んでいきますので、捜査に着手した時点で、アレック・カニ

ンガムが演じた役回りを怪しいとにらんでいたのです。

 そこで、警部から預かった紙の切れ端を入念に調べることにしました。たちどころに、

この文書全体に著しい特徴があることに気づきました。ご覧ください。変わった点に気づ

きませんか?」

「文字がばらばらですね」大佐が意見を述べた。

「ご明察です」ホームズは興奮した口ぶりだった。「これは二人の人物が一語ずつ交互に

書いたにちがいありません。ほら、 at と to のtは力強い筆跡なのに対し、 quarter

と twelve のtは弱々しいので、一目でわかるでしょう? さらに細かく見くらべていく

と、 learn と maybe は強い筆跡、 what は弱い筆跡であると容易に見分けられるはず

です」

「こりゃ驚いた。そのとおりだ!」大佐は声を張りあげた。「しかし、なんでまた一通の

手紙を二人で書いたりしたんだろう?」

「二人は明らかに悪事に手を染めるわけです。しかも一方がもう一方を信用していなかっ

たため、裏切られないよう相手にも自分と同じだけ手を汚させようと考えたのでしょう。

at と to を書いたほうがおそらく主犯格でしょう」

「なぜわかるのですか?」

「筆跡から推測される性格もひとつの判断材料ですが、もっと明白な根拠があります。こ

の紙片をじっくりご覧になれば、強い筆跡の人物が先に文面を一語おきに記入し、弱い筆

跡の人物があとから余白を埋めていったことにお気づきになるはずです。余白が充分でな

かったため、二人目が書き入れた文字は窮屈そうですからね。どうです、 at と to のあ

いだの quarter は見るからにあとから書いた感じでしょう? 先に書いた人物が首謀者で

あることに疑いの余地はありません」

「おみごと!」アクトン氏が賞賛した。

「ですが、これはまだ序の口でしてね」ホームズは言った。「いよいよここからが肝心で

す。まさかと思われるかもしれませんが、専門家はかなりの精度で筆跡から年齢を推定す

ることができます。通常の場合であれば、何十代の人間か確実に判断できるのです。通常

の場合、と前置きしたのは、病気などで衰弱していると、たとえ若者でも老人の特徴を呈

するということです。今回の場合は、太くて力強い字と、か細くて弱々しい字の二種類

で、後者はかろうじて判読はできますが、〝t〟の横棒はほとんど見えない状態です。よっ

て、片方は青年、もう片方はよぼよぼとまではいかないものの、かなりの年配であろうと

推察できます」

「実にみごと!」アクトン氏が再び叫ぶ。

「もうひとつ、かすかではありますが非常に興味深い手がかりをお目にかけましょう。二

人の筆跡には共通点が認められ、血縁関係にあると思われるのです。最も顕著なのはギリ

シャ文字風の〝e〟ですが、ほかにも細かい特徴がそっくりです。これらの筆跡見本を鑑定

すれば、その家系に特有の癖が浮かびあがってくるはずです。今申しあげているのは紙片

の分析結果のうち、おもだったものにすぎません。皆さんよりも専門家のほうが関心を持

ちそうな推論がほかにも二十三あります。それらすべてによって、この手紙を書いたのは

カニンガム親子ではないかとの疑いがますます強まりました。

 ここまで来れば、次にやるべきことは決まっています。犯行の手口をつぶさに調べ、手

がかりになりそうなものはないか探すことです。

 僕は警部と一緒にカニンガム邸へ行き、確認すべき点はすべて確認してきました。まず

被害者の傷ですが、四ヤード以上離れた場所からリヴォルヴァーで撃たれたものと断定で

きます。被害者の衣服には火薬が付着して黒ずんだ跡はどこにもなかったからです。そう

なると、格闘中に撃たれたというアレック・カニンガムの話は噓だということになりま

す。

 また、逃走した犯人が街道へ飛びだした地点について、カニンガム親子の証言は一致し

ていました。しかしそこを実際に調べたところ、地面にたまたま太い溝があり、底はぬか

るんでいました。にもかかわらず靴跡はまったく残っていませんでしたので、これに関し

てもカニンガム親子が噓をついたのは明らかです。犯行現場には正体不明の男などいな

かったのだと確信しました。

 さて、そうなると今度は殺人事件の動機です。それを解明するためには、その前に起き

たアクトン家の強盗事件の動機を先に突きとめなければなりません。アクトンさん、おた

くとカニンガム家のあいだでは訴訟が起きているそうですね。僕はそれを大佐から聞いて

いたので、すぐにぴんと来ました。あなたの書斎へ盗みに入った犯人は、訴訟に重要な書

類がねらいだったのではないか、とね」

「さよう」アクトン氏は言った。「まちがいありません。カニンガムの土地の半分は絶対

にわたしに所有権があると主張しておるのですが、ある書類が向こうの手に渡れば、わた

しはたちまち形勢不利になるのです。まあ、書類は弁護士の金庫に保管されていますから

安心ですがね」


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11/28 19:05