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背中の曲がった男(4)_シャーロック・ホームズの回想(回忆录)_福尔摩斯探案集_日语阅读_日语学习网
日期:2024-10-24 10:29  点击:3334

 その一時間半のあいだ、夫人と行動をともにしていたのは隣に住むモリスン嬢だった。

よって、本人は心当たりがないと言っているが、絶対に事情を知っているはずだ。

 真っ先に思い浮かんだのは、その若い娘とバークリー大佐は過去に特別な関係にあっ

て、娘がそれを夫人に告白したという説だ。それならば夫人が怒って帰宅したことや、モ

リスン嬢がなにも知らないと主張していることにも説明がつく。室内から聞こえた口論の

内容ともさほど矛盾しない。しかし、夫人はデイヴィッドという男の名を口走っている

し、大佐はたいそうな愛妻家だったと誰もが口をそろえて言っているので、この説はやや

根拠が弱いだろう。言うまでもなく、あの悲劇は第三者の侵入が引き金となったわけで、

その人物はそれまでの出来事とは無関係かもしれないんだからね。そうなると、ほかに有

望な説が見つかったわけではないが、大佐とモリスン嬢になにかあったとする推論は捨て

ざるをえない気がした。ただし、モリスン嬢はバークリー夫人が突然夫に憎しみを抱いた

理由を知っているにちがいない。そこで迷うことなくモリスン嬢を訪ねていき、あなたは

なにか隠していることがありますね、このまま真相が闇に葬られれば、ご友人のバーク

リー夫人は殺人容疑で裁判にかけられるかもしれませんよ、と説いて聞かせた。

 モリスン嬢は内気そうな目とブロンドの髪の、小柄で妖よう精せいのようにきゃしゃな

娘さんだが、なかなか賢いし、常識もきちんと持ち合わせている。僕の話を聞いてからし

ばらく考えこみ、やがて決然としたまなざしで振り向くと、驚くべき事実を明かしてくれ

た。かいつまんで話すから、聞いてくれ。

『決して口外しないとバークリー夫人と約束したのです。約束は約束ですから、破るわけ

にはまいりません。でも、あの方が重い罪に問われようとしていて、そのうえ、おかわい

そうに病気のせいで本人は口をきけないんですもの、彼女を救うためならば、約束を破っ

ても許していただけるでしょう。わかりました。月曜日の晩になにがあったか、お話しし

ますわ。

 わたしたちがワット街礼拝堂を出たのは九時十五分前でした。帰り道、ハドスン街を抜

けなければなりませんが、そこはほとんど人けのないひっそりとした道で、街灯は左側に

ぽつんとひとつともっているきりです。その街灯のそばへさしかかったとき、背中のひど

く曲がった男が向こうからやって来ました。一方の肩に箱のような物をぶらさげていま

す。頭を低く下げて、しゃがむような恰かつ好こうで歩いていましたので、たぶん身体が

不自由なのでしょう。すれちがい際、ちょうど街灯の明かりの下だったのですが、男は顔

を上げてこちらを見ました。そのとたん急に立ち止まり、気味の悪い声でこう叫んだので

す。『おやっ、ナンシーじゃないか!』

 バークリー夫人は死人のように青ざめました。その不気味な男に抱きとめられなかった

ら、あのまま道に倒れこんでいたでしょう。わたしはすぐに警官を呼ぼうとしたのです

が、驚いたことに、夫人はその男にとてもていねいな口調で話しかけたのです。

『この三十年間、あなたは亡くなったんだとばかり思っていたのよ、ヘンリー』声を震わ

せてそうおっしゃいます。

『ああ、死んだのさ』男はぞっとするような口ぶりで答えました。色の黒い化け物じみた

形相と、こちらをじっと見つめるぎらついた目は、思い出すだけで夢でうなされそうです

わ。髪と頰ひげには白いものが混じり、顔はしなびたリンゴのようにしわくちゃでした。

『先へ行っててくださらないかしら』バークリー夫人はわたしに言いました。『この人と

ちょっと話があるの。だいじょうぶよ、なにも心配いりませんから』気丈にふるまおうと

していましたけれど、顔は真っ青ですし、唇は震えどおしで、言葉がよく聞き取れないほ

どでした。

 わたしが言われたとおり先へ進みますと、二人は言葉を交わし始めました。数分が経

ち、バークリー夫人は目をらんらんと光らせてわたしのほうへ歩きだしました。あの背中

の曲がった男は街灯のそばに立って、怒り狂った様子で拳こぶしを振りあげていました。

夫人は黙りこくったまま歩いていましたが、この家の前まで来ると、わたしの手を握っ

て、さっきのことは内緒にしておいてほしいと懇願しました。『あれは昔の知り合いで、

すっかり落ちぶれてしまったのよ』とのことでした。わたしが誰にも言わないと約束する

と、夫人はわたしに抱きついてキスをし、そこで別れました。それきり一度もお目にか

かっていません。知っていることはこれですべてお話ししました。今まで警察に黙ってい

たのは、親しくしているバークリー夫人がまさかそんな窮地に立たされているとは夢にも

思わなかったからです。この状況では、彼女が助かるには事情をすべて明らかにするしか

ないのですよね』

 ワトスン、以上がモリスン嬢の語ってくれた話だ。きみなら想像できるだろうが、夜の

暗闇でともしびを見つけた思いだったよ。それまでばらばらだった事柄が一瞬にして正し

い場所にすっぽりとおさまり、事件の全体像と流れがおぼろげながら見えてきたんだから

ね。次に進むべき道は明らかだ。バークリー夫人にそれほど大きな衝撃を与えた男を捜し

だすこと。まだオルダーショットにいるなら、さほど苦労せず見つけだせるだろう。民間

人の数はあまり多くないし、身体の不自由な男なら人目を引くはずだ。僕は一日がかりで

捜索した。そして夕方、今日の夕方のことだがね、ワトスン、とうとう男の居所を突きと

めたんだ。名前はヘンリー・ウッドで、二人の御婦人に出くわしたのと同じ通りにある下

宿にいた。そこに住み始めてからまだ五日しか経っていない。僕は住民登録所の係員と称

して、下宿のおかみさんと実り多い噂話に花を咲かせたよ。例の男は手品などをやる演芸

師で、日が暮れると兵営内の酒場をまわって、ちょっとした芸を披露するらしい。相棒の

生き物を箱に入れて持ち運んでいるんだが、おかみさんはあんな動物はほかに見たことが

ないと言っておびえていた。男はその動物を手品に使うんだそうだ。おかみさんはそんな

ことを教えてくれたあと、あんなひん曲がった身体でよく生きていられるものだとか、と

きどき知らない外国の言葉でしゃべっているとか、ここ二晩は部屋からうめき声や嗚お咽

えつが聞こえてくるとか、いろんな話をした。さらには、下宿代はちゃんと払ってくれて

いるが、保証金として彼から預かった金は偽のフロリン貨らしいと言って、僕にそれを見

せてくれたよ。ところがワトスン、なんとそれはインドのルピー貨だったんだ。

 どうだい、これで現状がはっきり見えて、僕が同行してくれと頼んだ理由もわかっただ

ろう? 男は御婦人方と別れてから、こっそりあとをつけ、窓越しに大佐夫妻が言い争っ

ているのを目撃したにちがいない。そして部屋へ飛びこんだが、その拍子に箱に入ってい

た動物が逃げだした。ここまではすべて明確になったね。だが、あの部屋で本当はなにが

あったかを語れるのは、世界であの男ただ一人なんだ」

「本人を尋問するつもりかい?」

「そのとおり。ただし立会人のいる場でね」

「私がその立会人になるわけだね?」

「ああ、引き受けてくれるならば。男がすんなり口を割れば、それで万事解決。拒んだ場

合は、警察に知らせて逮捕状を請求してもらうしかない」

「われわれが向こうに着いたら、男はもういなくなっているかもしれないよ」

「安心したまえ、手は打ってある。ベイカー街不正規隊の少年を一人、現地へ送りこんで

見張らせているんだ。男がどこかへ行くときはいつでも影のようにくっついていく。だか

ら明日ハドスン街へ行けば、必ず男と会えるよ、ワトスン。さてと、これ以上きみの睡眠

時間を削るような罪深いまねはできない。お開きにしよう」


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11/28 18:35