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海軍条約文書(3)_シャーロック・ホームズの回想(回忆录)_福尔摩斯探案集_日语阅读_日语学习网
日期:2024-10-24 10:29  点击:3334

 さらに二カ条を書き写しましたが、眠気はひどくなるばかりです。足腰を伸ばそうと、

立ちあがって室内を歩きまわりました。コーヒーはまだ来ません。いったいどうしたんだ

ろうと不思議に思い、様子を確かめにドアを開けて廊下を歩いていきました。わたしのい

た部屋からは、ぼんやりと明かりのともった薄暗い廊下がまっすぐ伸びていて、出口はそ

こだけです。廊下は湾曲した階段へ続き、階段を下りきった先が管理人室です。階段の中

間あたりには小さな踊り場があるのですが、そこから直角に別の廊下が伸び、狭い階段を

通り抜けて裏口へ出られます。ここは管理人たちが使う通用口なのですが、チャールズ街

から出入りする職員にとっても便利なのです。これが簡単な見取り図です」

「ありがとう。これまでのところはよくわかりました」ホームズは言った。

「ここからが一番肝心なので、どうか注意してお聞きください。わたしは階段を下りて

ホールへ行き、管理人室をのぞきました。なんと、管理人は眠りこけていました。かたわ

らのアルコールランプではやかんがぐらぐらと煮えたって、床に熱湯が吹きこぼれていま

す。わたしは管理人を揺り起こそうとしました。その瞬間、管理人の頭上にある呼び鈴が

けたたましく鳴りだし、彼はその音で飛び起きました。

『あっ、フェルプスさん!』わたしの顔を見て、ひどくうろたえました。

『コーヒーがどうなったのか、様子を見にきたんだ』

『すみません、やかんを火にかけたまま眠っちまったようで』管理人はわたしに向けてい

た視線を、まだ鳴り続けている呼び鈴に移し、ぎょっとしました。

『フェルプスさんがここにいるとしたら、いったい誰が鳴らしてるんでしょう?』

『どういうことだ? それはどこの呼び鈴なんだ?』

『あなたが仕事をなさってる部屋のですよ』

 冷たい手で心臓をわしづかみされた気分でした。大事な条約文書を机に広げてある部屋

に、誰かがいるということです。わたしは大慌てで階段を駆けあがり、廊下を突っ走りま

した。ホームズさん、そのとき廊下にはまったく人影がありませんでした。部屋に入る

と、そこにも誰もいません。ただ一点を除けば、さっき部屋を出たときのままでした。そ

うです、預かっていた重要文書は机の上から消えていたのです。写しはそこに残されてい

ましたが、原本はなくなっていました」

 ホームズは椅子の中で背筋を伸ばすと、両手をこすり合わせた。話に引きこまれている

証拠だ。「それで、あなたはどうなさいました?」ホームズはつぶやくように言った。

「泥棒は通用口から階段をのぼってきたにちがいないと即座に判断しました。表玄関から

入ったのなら、わたしと行き合ったはずです」

「では、泥棒が最初から部屋に潜んでいた、あるいは、さっきあなたが薄暗いとおっ

しゃった廊下に隠れていたということは絶対にありえないと?」

「ええ、ありえません。部屋であれ廊下であれ、ネズミ一匹隠れられません。物陰がどこ

にもないのです」

「そうですか。では、先をどうぞ」

「わたしが急に血相を変えたので、管理人はなにかまずいことが起こったようだと察した

のでしょう、あとから階段を上がってきました。わたしたちは二人して廊下を走り、

チャールズ街に面した通用口へと急な階段を駆け下りました。裏口は閉まっていました

が、施錠はされていませんでした。すぐにドアを開け、外へ飛びだしました。ちょうどそ

のとき、近くの教会から鐘の音が三つ聞こえてきたのを今でもはっきりと覚えています。

九時四十五分を告げる鐘です」

「それは大変重要なことですね」ホームズはシャツのカフスになにやら書き留めた。

「闇夜の晩で、生暖かい小雨が降っていました。チャールズ街は人けがまったくありませ

んでしたが、突きあたりで交わるホワイトホール通りはいつもどおりにぎわっています。

わたしたちは帽子もかぶらずに歩道をひた走り、向こうの角に警官が立っているのを見つ

けました。

『大変だ、泥棒に入られた』わたしは息せき切って警官に駆け寄りました。『外務省から

重要書類が盗まれた。誰かここを通らなかったか?』

『十五分前からここに立っていますが、そのあいだに通ったのは女が一人だけです。背の

高い年配の女で、ペイズリー織のショールをはおっていました』

『ああ、それならうちの女房だ』管理人が大声で言いました。『おまわりさん、ほかには

誰も通らなかったんですか?』

『誰も通りません』

『じゃあ、逆の方向へ逃げたんですよ』管理人はそう言ってわたしの袖そでを引っ張りま

す。

 わたしはまだ納得できない気分でした。管理人がやけに反対方向へ急せかすのも、なん

だか腑ふに落ちませんでした。

『その女はどっちへ行ったんだ?』と警官に尋ねました。

『わかりません。通り過ぎるのは気づきましたが、注意してずっと見ている理由はありま

せんでしたから。急いでいる様子だったのは覚えています』

『それはどのくらい前?』

『少し前です』

『五分より前ではない?』

『はい、五分以上は経っていません』

『フェルプスさん、なにをぐずぐずしてるんです。一刻を争うってときに』管理人が叫び

ます。『女房はなんの関係もありませんよ。おれが請け合います。さあ、早く反対方向を

探しましょう。旦だん那なが行かないなら、おれが行きます』管理人は駆けだしました。

 わたしはすぐに追いかけて、袖をつかみました。

『おまえの住所は?』

『ブリクストンのアイヴィレイン十六番地です。だけどフェルプスさん、見当はずれの

ものを追いかけてる場合じゃないですよ。それより、通りの向こう側へ行ってみましょ

う。誰かに話を聞けるかもしれません』

 管理人の言うとおりにしても損はないと思い、さっきの警官と一緒に通りを逆の方角へ

向かいました。ところが、そっちは交通量が多く、人が大勢行き来していました。しかも

小雨が落ちているので、みんな少しでも早く濡ぬれない場所へ行こうと急ぎ足で、どんな

人間が通ったか覚えている者など一人もいませんでした。

 しかたなく役所へ戻り、階段や廊下をもう一度探しましたが、結局は徒労に終わりまし

た。わたしがいた部屋に通じる廊下はクリーム色のリノリウムが敷いてあるので、足跡が

つけばくっきりと残ります。そこで廊下を念入りに調べたのですが、足跡らしきものは見

つかりませんでした」

「その晩はずっと雨が降っていたのですか?」

「降りだしたのは七時頃でした」

「では、管理人の妻が九時頃に部屋へ来たとき、なぜ泥のついた靴の跡が残らなかったん

でしょう?」


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