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海軍条約文書(9)_シャーロック・ホームズの回想(回忆录)_福尔摩斯探案集_日语阅读_日语学习网
日期:2024-10-24 10:29  点击:3334

 ハリスン嬢は不満そうな顔でまた椅子に腰かけた。けれども彼女の兄は散歩に加わり、

私たちは四人で外へ出た。芝生の庭をぐるっとまわりこんで、フェルプスの病室の窓まで

行くと、たしかに花壇の土に足跡がいくつか残っていた。ただし、不鮮明で形がはっきり

しない。ホームズは足跡の上に少しのあいだかがみこんでから立ちあがり、肩をすくめ

た。

「これではあまり役に立ちませんね。さあ、家のまわりを一周して、賊がなぜこの部屋か

ら入ろうとしたのか調べてみましょう。客間やダイニングルームのほうが窓がはるかに大

きいですから、忍びこむのは簡単だったはずですがね」

「その代わり、道路から見えやすいですよ」ジョゼフハリスンが言った。

「なるほど、おっしゃるとおりです。おや、このドアは見るからに目をつけられそうです

ね。なんのドアですか?」

「出入りの商人が使う勝手口です。もちろん夜間は施錠されています」

「以前にもこういうことはあったんですか?」

「いいえ、一度も」フェルプスは答えた。

「家には金銀の食器など、泥棒にねらわれそうな品物はありますか?」

「金目のものはなにもありません」

 ホームズは両手をポケットに突っこんで、家のまわりをぶらぶらと歩いた。珍しく投げ

やりな態度だ。

「ところで」ホームズはジョゼフハリスンに話しかけた。「たしか、賊が柵をよじの

ぼった跡を見つけたそうですね。そこを見ておきましょう」

 ジョゼフは柵のてっぺんが壊れているところへ一同を案内した。折れた小さな木片がそ

こからぶら下がっている。ホームズはそれを引きちぎると、間近でしげしげと眺めた。

「折れたのは昨晩だと思いますか? 見たところ、もっと前からのようですが」

「ああ、そうかもしれませんね」

「柵の向こう側には飛び下りた跡もありません。だめですね、これじゃ手がかりにはなり

ませんよ。寝室へ戻って、ゆっくり話しましょう」

 パーシーフェルプスは将来の義兄の腕につかまって、ゆっくりゆっくり歩いた。ホー

ムズのほうはさっさと芝生を横切っていったので、彼と私はフェルプスたちよりもずいぶ

ん前に寝室の開いた窓にたどり着いた。

「ミスハリスン」ホームズはいたく真剣な口調で室内にいるアニーに話しかけた。「今

日はずっとこの部屋にいてください。どんなことがあっても、決してここを離れないよう

に。これは非常に重要なことなのです」

「わかりましたわ。ホームズさんのおっしゃるとおりにいたします」彼女は驚きながら答

えた。

「夜、寝室へ行かれるときは、この部屋のドアをしっかりと施錠し、鍵かぎは肌身離さず

持っていてください。必ずそうすると約束してください」

「でも、パーシーが」

「彼は僕らと一緒にロンドンへ行きます」

「なのに、わたしはここに残るんですか?」

「それが彼のためなんです。あなたは彼を救うことになるんです! さあ、早く! 約束

してくれますね?」

 アニーがうなずいたとき、ちょうどフェルプスとハリスンがやって来た。

「そんなところに閉じこもって、どうしたんだい、アニー?」兄が声をかけた。「出てき

て、日射しを浴びたらどうだい?」

「いえ、やめておくわ、お兄さん。少し頭痛がするの。この部屋にいれば、涼しくて楽な

の」

「このあとどうすればいいでしょう、ホームズさん?」フェルプスが訊きいた。

「そうですね、昨夜の小さな騒ぎに気を取られて、肝心の問題をおろそかにしてはいけま

せん。そこで、僕らと一緒にロンドンへ来ていただけると大変ありがたいのですが」

「これからすぐにですか?」

「ええ、都合がつき次第。一時間後くらいでどうでしょう」

「わかりました。体調はずいぶん良くなりましたので、わたしが行ってお役に立てるなら

ば」

「非常に助かります」

「今夜はロンドンで泊まることになるんでしょうね」

「ちょうどそれをお願いするところでした」

「ということは、昨夜の侵入者がまたやって来たとしても、部屋はもぬけの殻というわけ

ですね。ホームズさん、あなたにすべてお任せします。ご要望があれば、なんなりとおっ

しゃってください。そうだ、ジョゼフにも同行してもらいますか? わたしの世話をして

くれるでしょうから」

「いえ、それには及びません。友人のワトスン君はれっきとした医者ですから、あなたの

世話は充分できますよ。さて、では、ワトスン君と僕もここで昼食をとらせてもらって、

そのあと三人で出発しましょう」

 ホームズの指図どおりに事が運んだ。そのあいだもハリスン嬢はホームズとの約束を忠

実に守って寝室を離れなかった。ホームズがそんな指示をした目的はいったいなんだろ

う、と私は首をひねった。彼女とフェルプスを引き離しておきたい理由でもあるのだろう

か。そのフェルプスだが、私たちとダイニングルームで昼食をとるあいだ、また元気に動

けるようになったのでさも嬉うれしそうだった。

 三人で連れ立って駅へ到着すると、ホームズはさらに意表を突く戦法に出た。フェルプ

スと私が汽車に乗りこむのを見届けてから、自分はこのままウォーキングにとどまるつも

りだと静かに宣言したのである。

「ここでもう少し調べたいことがありましてね」とホームズは説明した。「フェルプスさ

ん、あなたがいらっしゃらないほうが、いろいろと都合がいいんですよ。ワトスン、ロン

ドンに着いたらすぐにフェルプスさんを馬車でベイカー街へお連れして、僕が戻るまでそ

ばに付き添っていてくれないか。幸い、きみたちは昔の学友だから、積もる話がたくさん

あるだろう。フェルプスさんには予備の寝室を使ってもらえばいい。明日の朝食には間に

合うよう戻るつもりだ。八時ちょうどにウォータールー駅に着く汽車があるからね」

「ロンドンでわたしと一緒に捜査するはずではなかったのですか?」フェルプスはがっか

りした顔で言った。

「それは明日できますよ。今はこっちでの用事のほうが急を要しますのでね」

「では、ブライアブレイの者に伝えてください。わたしは明日の晩に帰ると」動きだした

汽車の中から、フェルプスが叫んだ。

「僕はあの屋敷にはもう寄らないと思います」ホームズはそう答え、プラットホームから

離れていく私たちに明るく手を振った。

 車中、フェルプスと私はいったいどういうことだろうねと話し合ったが、二人ともホー

ムズがああいう行動を取った理由はさっぱり思い浮かばなかった。


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