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ノーウッドの土建屋(5)_ホームズの生還 シャーロック・ホームズ(归来记)_福尔摩斯探案集_日语阅读_日语学习网
日期:2024-10-24 10:29  点击:3336

「僕はねえ、ワトスン君」と、せわしくフロックに手を通しながら「やっぱりブラック

ヒースからにするよ」

「どうしてノーウッドからにしないんだい」

「どうしてって、この事件にはひとつの出来事の前に、関係の深い別の出来事があるんだ

よ。警察は、たまたま後で起こった出来事が犯罪を構成しているから、そっちに気を取ら

れてしまっているが、間違いなんだ。僕は、この事件を論理的に調べてゆくには、明らか

に最初の出来事……つまり、あんなに突然に書かれた、しかもまるっきり思いがけない相

続人を選んだあの遺言状……そこから始めるべきだと思うんだよ。そうすれば、きっと第

二の出来事が明白になってくるよ。いやいや、君には来てもらわなくてもすむと思う。危

険はない見込みだからね。でなきゃ、君を連れずに出かけたりなんかするものか。夕方

帰ってくるからね、そのときにはきっと、僕のふところにとびこんで来たあの青年のため

に、いささか得るところがあったと報告できるだろう」

 ホームズは遅くなって帰って来た。気味悪いほどやつれた浮かぬ顔をしているのをひと

目見て、私は彼が出がけに抱いていた希望を満たされないままに帰って来たことを悟っ

た。乱れた心を鎮 しず めようと、彼は一時間ばかりもヴァイオリンを鳴らしていたが、よう

やくそれをほうり出して、失敗の巻を詳しく話してくれた。

「うまくいかないよ、ワトスン君、まるでうまくない。レストレイドに偉そうな口をきい

たけれど、まったくのところ、今度ばかりはあっちが正しくて、こっちが見当をあやまっ

ているようだ。僕のカンはあっちを向く、事実はみんな反対を向く。それに、わが英国の

陪審員 ばいしんいん は、まだまだレストレイドの持って来る事実より、僕の説のほうを重んじるほ

どの知能程度に達していないからねえ」

「ブラックヒースへは行ったのかい」

「うん、行ってみた。すぐにわかったんだが、殺されたオウルデイカーはかなりの悪党

だったよ。青年の父親は息子を探しに出かけて留守だった。母親がいたよ、小柄な、うぶ

毛の多い、青い目の人だがね、心配やら腹が立つやらで震えていた。むろん、そんな大そ

れたことをする息子じゃないと言っていた。ところがオウルデイカーの殺されたことに

は、驚いてもいないし、気の毒とも言わない。それどころか、彼のこととなると、ずいぶ

ん苦々 にがにが しい口をきく。あれでは警察もかなり言い分が強くなるだろう。かねがね母親が

そんな口をきいていたのなら、息子はだんだん彼を憎んで暴力をふるうようにもなりかね

ないからねえ。

 『あの男ときたら、人間じゃなくて凶悪な、悪がしこい猿ですよ。昔から、若い時分か

らそうなんですよ』と、こうなんだ。

 『若い時分からご存知なんですか』ときくと、

 『ええ、ええ、存じてましたとも。ほんとは私に求婚したことだってあるんですから

ね。あんな男とそわないで、お金はなくとも、もっとましな人と結婚するだけ分別があっ

て、ほんとによかったですわ。婚約までしたんですけれどね、ホームズさん、鳥飼い場の

中に猫を放したなんて、厭な話を聞きましてねえ、あんまり残酷だから空恐ろしくなっ

て、もうそんな人はお断りだと思ったんですの』

 それから小箪笥 こだんす の中をひっかきまわして女の写真を一枚とり出して見せたが、ナイフ

でけずったり切ったりして見るかげもない。

 『私の写真ですのよ。そんなことして、呪いの文句までつけて、結婚式の朝、送ってよ

こしたんですよ』

 『しかし、息子さんに全財産を遺贈したぐらいですから、もう貴女を許していたんで

しょうよ』と言うと、

 『ジョーナスオウルデイカーが死のうが死ぬまいが、あんな男から私も息子もビタ一

文だってもらいたかありませんですわ』と、むきになって言うのさ。『天には神様がい

らっしゃいますからね、ホームズさん、あの悪者をこらしめなすった神様は、きっと私の

息子の手が、あの男の血で汚れてなんかいないことをあかしてくださいますわ』

 さそいをかけてもみたんだが、僕の説に有利なことは何も聞き出せなかった。かえって

不利な点まで出てくる始末だ。とうとう諦 あきら めてノーウッドのほうに行ってみた。この、

ディープディーン荘というのは、けばけばしい煉瓦 れんが の、でかい新式の別荘で、敷地の

奥に建っている。前庭には月桂樹 げっけいじゅ を植え込んだ芝生がある。右手の、通路からちょっ

と奥まったところに、火事のあった材木置場がある。手帳にざっと見取図を書いておい

た、これだ。左側のこの窓をあけると、オウルデイカーの部屋だ。道から見えるだろう、

ね。それが本日唯一のなぐさみさ。レストレイドはいなかったが、部下の巡査部長が代理

をつとめていた。それがちょうど、たいした宝物を掘りあてたところだったよ。

 朝から焼けた材木の灰をかきまわしていたんだが、黒こげになった死体のそばで、色の

変わった金属性のボタンを見つけ出したのさ。よく調べてみたが、明らかにズボンのボタ

ンだ。おまけにその中に《ハイアムズ》と言う名前を彫ったのがある。オウルデイカーの

いきつけの服屋だ。それから僕は、芝生に足跡か何かないかと思って、よく気をつけて調

べたんだが、この日照り続きで、何もかも鉄みたいに固まっている。人間が、包みみたい

なものを引きずって、材木置場にそった低い《いぼた》の木の生け垣をふみこえた跡のほ

かは、なにもわからなかった。むろん、みな警察の説と符合している。背中に八月の太陽

を浴びながら、芝生の上を一時間も這いずりまわったが、結局なんの得るところもなし

さ。

 そっちが不首尾だから、今度は寝室に入って調べてみた。血痕はごく薄いもので、ちょ

いと《しみ》になって色がついている程度なんだが、新しいことには間違いない。ステッ

キはもう片づけてあったが、やはり血痕は薄いという。青年のステッキだということは問

題がない。本人が認めたというんだから。青年と老人の足跡は絨毯 じゅうたん の上から検出でき

たが、第三者のはひとつもない。これまた向こうの勝ちだ。向こうの得点はふえる一方、

こっちは行き詰まりだ。

 たったひとつだけ、かすかに希望があった。……しかしそれも結局駄目。金庫の中味を

調べてみたんだよ。ほとんど取り出して机の上に置いたままだったんだが。書類はみな封

筒に入れて封蝋 ふうろう で封してあったんだが、二、三警察の手で開封したのがあった。たいが

い、僕の見たところじゃ、たいした値打ちのものではなかったし、また銀行通帳を見て

も、オウルデイカーがそんな金持ちだことは思われないような額しか記入してない。しか

し僕には、書類があれで全部だとは思われなかった。何かほかに証文があるんじゃなかろ

うか……もっと値打ちのあるものが……しかし見つからない。もし明確な証拠でもあれ

ば、レストレイドの考えを覆 くつが えすことができるに違いない。いずれは相続するとわかっ

ているものを、誰が盗 って行くものか、とか言ったからねえ。


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