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プライアリ学院(2)
日期:2024-02-14 23:58  点击:293

 五月一日、ご令息は学校に着かれました。その日から夏の学期が始まります。可愛らし

い少年で、校風にもすぐ馴れました。ここで申し上げても……こんな場合、なまじっか隠

しだてしてもまったく意味のないことですから、軽率のそしりは受けまいと思いますが、

家庭での少年は必ずしも幸福ではなかったようです。

 公爵の結婚生活が平和なものでなく、結局、合意により別居生活をされることになっ

て、夫人のほうが南フランスに移られたことは、もう公然の秘密になっております。これ

はごく最近のことでして、少年の気持は強く夫人のほうへひかされたのだといわれます。

夫人がホールダネスの屋敷を去られてからというものは、少年もふさぎ込んでしまい、そ

れで公爵も私どもへ少年をお託しになったのです。

 二週間もすると、少年はすっかりなじんでしまい、見かけたところまったく幸福そうで

したが……。

 最後に見かけたのは五月十三日、つまり先週月曜日の夜です。部屋は三階で、別に二人

の少年がいる大きな部屋を通って入るようになっています。二人とも、何も見なかった

し、物音もしなかったと言ってますので、ソールタイア少年がここを通っていないことは

たしかです。

 一方、部屋の窓はあいているし、地面からは太い蔦 つた が這 い上がっているのです。地面

に足跡はなかったが、ここよりほかに出口があるとは考えられません。

 失踪に気づいたのは翌火曜日の朝七時です。ベッドにはいったん入って寝た形跡があり

ます。出かける前に、制服になっている黒いイートン式のジャケットと、濃い灰色のズボ

ンをきちんと着込んでいます。誰かが部屋に侵入した形跡もないし、またそのことなら隣

の部屋で寝ている年上のほうのコーンターというのがたいへん目ざとい子で、彼が叫び声

も物音らしいものも聞かなかったと言ってますから確実だと申せましょう。

 ソールタイア少年の失踪がわかると、私はただちに校内総点呼を行ないました。生徒、

教師、小使いすべて集めてみると、いなくなったのはソールタイア少年だけではなかった

のです。ハイデッガーというドイツ人教師もいません。彼の部屋も三階で、ソールタイア

少年と同じ並びのいちばん奥にあります。ベッドも同様、一度入った跡がありましたが、

ワイシャツと靴下が床に散らかっているから、充分身なりを整えないまま出ていったもの

と思われます。こちらは明らかに蔦 つた を利用しています。窓の下の芝生に足跡が残ってい

たのです。ハイデッガー先生は芝生わきの小屋に自転車を置いていたはずですが、それも

なくなっています。

 この人が私の学校へ来てから二年になります。立派な推薦状がありましたが、だいたい

無口で、気むずかしい性質ですから、教師や生徒の間では人気はあまりありません。火曜

の朝以来、色々と手を尽しましたが、二人について何の手掛りも出ず、今日の木曜になっ

ても皆目 かいもく わからないのです。もちろん、ホールダネス公爵家へ問い合せは出してありま

す。学校から数マイルのところですし、急に家が恋しくなって帰ったのかとも思ってみま

したが、そんなことはないとのこと。公爵もずいぶんご心痛になっておられ、私としまし

ても不安と責任感で神経衰弱になっていることは、さきほどお恥ずかしいさまをお目にか

けた通りです。ホームズさん、あなたがお仕事に全力をうち込まれるんでしたら、今こそ

そのときです。これほど価値ある事件は生涯にまたとはないだろうと思います」

 ホームズはこの不幸な校長の物語を極度に緊張して聞いていた。引きよせた眉 まゆ の間に

刻まれた深い溝 みぞ は、これ以上油をそそがれるまでもなく、彼がこの事件に熱中している

証拠であり、それに含まれたすばらしい興味をべつとしても、物事の複雑性と異常性を好

む彼の気持に直接訴えてきたのである。手帳を引き出すと何やら二、三メモをとった。

「もっと早く私のところへおいでにならなかったのは大きな怠慢でしたね」言葉は厳 きび

かった。「それで、初めからたいへんなハンディキャップがつけられましたよ。たとえば

つた にしろ、芝生にしろ、老練な者にかかれば、何も役だたないなんて考えられません

よ」

「仕方がなかったのです。公爵は噂のたつのを極力避けたいご希望でした。家庭内の不和

の風評がたつのを怖れられたんです。この種のことを深く嫌われておられます」

「でも警察の取り調べはあったんでしょう?」

「ええ、それは……でも落胆するだけでした。少年と若い男が、その日、早朝の汽車で近

くの駅を発つのを見たというので、手掛りらしいものを得たと思ったのですが、昨晩に

なって、二人をリヴァプールまで追って取り調べた結果、まったく別人だったとのしらせ

が入りました。焦躁 しょうそう と絶望に眠られぬ一夜を明かして、今朝いちばんでこちらに参っ

た次第です」

「別人を追及しているあいだ、土地の警察は調査の手をゆるめていたわけでしょう?」

「まったく放擲 ほうてき していました」

「そんなことで三日間も無駄にしたわけです。そんなへまなやり方が残念でなりません

ね」

「そうです、同感です」

「でも最後の解決の可能性はあるはずですよ。よろしい、喜んでお引き受けしましょう。

で、少年とドイツ人教師との間に何か関係が見つかりませんか?」

「まったくないんです」

「少年はその教師のクラスでしたか?」

「いいえ、私の知る限りでは、言葉を交したこともないようです」

「そいつぁ変ですね。少年は自転車を持っていましたか?」

「いいえ」

「ほかに自転車がなくなってませんでしたか?」

「なくなっていません」

「たしかでしょうね」

「たしかです」

「ははあ、でもあなたは真夜中にそのドイツ人が少年を小脇にかかえて自転車を走らせた

などとおっしゃりはしないでしょうね?」

「もちろんそんなこと……」

「じゃあ、あなたはどういう意見で?」

「自転車は一つの瞞着 まんちゃく で、どこかにそれを隠しておいて、二人は歩いて逃げたんだろ

うと思いますが……」

「なるほど、しかし、ごまかしにしちゃ、少々馬鹿げてますね。そうじゃありませんか。

小屋の中には他に自転車がありますか?」


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