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プライアリ学院(11)
日期:2024-02-15 16:46  点击:282

 あれの悪企 わるだく みを挫折 ざせつ させたのは、お二人によるハイデッガーの死体発見です。そ

れを知って、ジェイムズは恐怖にとらわれました。二人でこの部屋に坐っていたときに、

ハックスタブル博士の電報が来たのです。あれがあまりに悲しんだり、騒ぎたてたりする

ので、前から消えなかった疑いが一足とびに確信となりました。そこで叱りつけてやる

と、自分からすべてを白状してしまいました。それから、あと三日間秘密を守ってくれる

ようにと嘆願します、つまり悪党の共犯者に命の助かるチャンスを与えようというので

す。

 仕方がありません。いつもの伝 でん で、あれに泣きつかれて譲歩しました。ジェイムズは

すぐ《闘鶏館》へ走ってヘイズに急を告げ、逃亡の手を授けたのです。さすが昼間は人の

目がはばかられて行けず、夜になると私はすぐ可愛いアーサーに会いに行きました。子供

は無事だったが、何しろ目のあたりに惨事を見せつけられて、その怯(おび)えかたと

いったら、表現のしようもありませんでした。約束だから、おおいに不満だけれども子供

を三日間、ヘイズ夫人にあずけることに同意しました。警察に子供の居場所だけを知らせ

て、殺人犯のことは知らせないわけには参らぬし、また犯人が罰せられるのだけ見て、薄

幸なジェイムズに身の破滅がこないようにもできず……。ホームズさん、まわりくどい言

葉や言い抜けはやめて、すべてを明らかにしました。では今度は君が率直にお話し下さ

い」

「承知しました。まず第一に、法的にみて、閣下は非常に重大な立場に身を置かれたと言

わねばなりません。閣下は重罪犯人を大目に見て、その逃亡を助けました。つまり、ジェ

イムズワイルダー氏が犯人の逃亡を助けるために出した金は、閣下のお手もとから出た

ものと、私は信じております」

 公爵は首を下げて同意を示した。

「これは実に容易ならぬ問題です。私にとって、さらに責むべきものと思われますのは、

閣下のソールタイア卿に対する態度です。三日間もあの陋屋 ろうおく に残しておかれました」

「何しろ、堅い約束が……」

「こんな連中たちとの約束が何でしょう? ご令息がふたたび誘拐されないという保証は

ございませんでしょうに。罪ある年長のご子息の機嫌を損 そこ ねまいとして、閣下は年はの

ゆかぬ純真なソールタイア卿を不必要な危険にさらされたではありませんか。断じてゆる

すべからざる行為です」

 ホールダネスの栄 えある公爵が、自分の屋敷でこんなふうに詰腹 つめばら を切らされたの

は、初めてであったろう。一度はその広い額に血がのぼったが、良心は彼の口を閉ざして

しまったのである。

「尽力はいたしますが、ただし条件がひとつあります。それは、閣下が呼鈴 よびりん を鳴らして

召使を呼んで下さって、私が思うままの命令を与えることです」

 口を閉ざしたまま、公爵が呼鈴のボタンを押すと、召使いが姿を見せた。

「君も喜んでくれるだろうが、ソールタイア卿が見つかったんだよ。すぐ馬車を《闘鶏

館》へ走らせてお連れするようにと、閣下のご希望です」

「さて……」召使いが喜んで立ち去ると、「これで将来が保証されたのですから、過去に

ついては、もっと寛大であり得るわけです。私は官憲の立場にある者ではありませんか

ら、正義の結末さえつきますれば、知っていることをすべて暴露する理由も見つかりませ

ん。ルーベンヘイズについては何も申しますまい。ただ絞首台が待っているばかりで、

私としましても、その助命に手を貸す必要を認めません。彼がどんなことを暴露するかわ

かりませんが、閣下のお力で、口をつぐんでいたほうがためになると納得させることもで

きましょう。警察のほうでは、彼が身代金目あてでご令息を誘拐したとの解釈も成りたち

ましょう。もし警察がそれに気づかぬとしても、私が口を貸して見方を広めてやる必要も

ありません。ただ、この際あえてご忠告申し上げますが、この屋敷にこれ以上ジェイムズ

さんを引きとめておかれるのは、今後不幸を招くばかりだと思います」

「わかっています。彼も永久に私のもとを去って、オーストラリアへ自分の運をひらくた

めに行くことにきまりました」

「ならば、ワイルダーさんの存在が閣下の結婚生活に不幸をもたらしたと申されました

が、奥様に対して、この埋め合わせをなさること、さらに不幸にして中断された以前のご

関係をふたたびおはじめになるよう、私からもおすすめいたします」

「ホームズさん、そのことも手配しました。今朝、手紙を出したばかりです」

「それならば」とホームズは立ち上がった。「私とこの友人もともに、二人の北部小旅行

が二、三の幸福な結果をもたらしたことを心から喜んでおります。さらにもうひとつ、ご

く小さなことですが、はっきりしておきたいものがあります。あのヘイズが自分の馬に牛

の足跡のつくひづめを打って、ごまかしておりますが、この巧妙きわまる細工は、ワイル

ダー氏から教わったのでしょうか」

 公爵はびっくりした様子でしばらく考え込んでいたが、やがて扉をあけて、博物館ふう

に飾りつけられた大きな部屋へ案内した。公爵は隅のガラス箱のほうへわれわれを導い

て、次のような説明文を指さした。

『この蹄鉄 ていてつ は、ホールダネス屋敷の外濠 そとぼり から掘り出されたもので、馬に用いられた

ものである。裏面は分趾蹄 ぶんしてい の形をなし、しばしば追跡者を誤らしめた。中世期におい

て、掠奪 りゃくだつ を事としたホールダネス卿が使用したものと推定される』

 ホームズは箱をあけ、湿した指ですっと上をなでた。指先には、まだ新しい泥がうすく

残った。

「どうもありがとうございました」ホームズはそう言って箱の蓋 ふた をしめた。「こちらに

参りましてから、最も興味あるものの第二でした」

「ほう……じゃ第一は?」

 ホームズは小切手を折りたたんで、丁寧に手帳に挟 はさ んだ。

「貧乏なものですから……」ホームズは大事そうにそれを叩いて、内ポケットの奥深くし

まい込んだ。


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