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ブラック・ピーター殺し(6)
日期:2024-02-15 21:47  点击:275

 男はいっぺんにへこんでしまった。両手に顔を埋め、身体じゅうがふるえた。

「どこにありました? ちっとも知らなかった。宿屋で失くしたと思ってたのに」と泣く

ように言った。

「それでたくさんだよ」ホプキンズは厳しい口調になった。「文句があるなら法廷で申し

述べろ、警察まで一緒に来るんだ。じゃ、ホームズさん、色々とありがとうございまし

た。そのお友だちの方も色々どうも、これならお出で願うには及ばなかった、僕ひとりで

うまくやれましたよ。でも本当にありがとうございました。ブランブルタイホテルに部

屋をとってありますから、村まで一緒に歩いて行きましょう」

 「ねえ、ワトスン君、あれをどう思う?」

 翌朝、帰り途でホームズが言った。

「君は満足していないようだね」

「いや、まったく満足してるんだよ。しかし、ホプキンズのやり方には感心しないね。あ

の男には失望したよ。もっと取り柄 のある男かと思っていた。起こりうべき変化には常に

備えておかねばねえ、これは犯罪捜査の第一課だよ」

「で、その変化って、何のことだい?」

「僕自身が追ってる筋だがね。失敗するかもしれん。それはわからんが、僕としては最後

まで追ってみるつもりだ」

 ベイカー街に着くと、手紙が四、五通、ホームズの帰りを待っていた。彼はその中の一

通をとり上げて、開封すると、勝ち誇ったように爆笑した。

「しめたっ! さっきの変化が進展してきたぞ。頼信紙はあるかい? ちょいと二本書い

てくれないか、一本はラトクリフハイウェーのサムナ回漕 かいそう 店宛……

《アスアサ十時三人ヨコセ》バジル……

この方面ではこんな名前で通ってるんだ。もう一本はブリクストンのロード街四六、スタ

ンリーホプキンズ宛……

『アスアサ九時半朝食ニコイ、重大事ニツキ差支エアレバヘンマツ』シャーロックホー

ムズ……

ワトスン君、このいまいましい事件のやつ、十日間も僕につきまとって悩ましやがった

が、どうやら完全に追っ払えそうだよ。明日はこの事件も最後が聞けると思うから、もう

おさらばだ」

 指定の時刻きっかりにスタンリーホプキンズが現われ、三人はハドスン夫人の料理す

る素晴らしい朝食にとりかかった。若い警部は昨晩の成功でご機嫌上々といったところで

ある。

「君はほんとうに自分の解決法まちがいなし、と思ってるの?」とホームズが聞いた。

「これ以上完全なんて、考えられませんよ」

「僕には決定的だとは思えんがね」

「おどかさないで下さいよ。これ以上、どうしろと言うんです?」

「君の論で、すべての点が説明できるかね?」

「もちろんですよ。殺人の行なわれた当日、ネリガンはブランブルタイホテルに泊まっ

ているんです。ゴルフをしに来たと見せかけてますが、部屋が一階なもんですから、いつ

でも出かけられたんです。

 あの晩、ウッドマンズリーへ出かけて、小屋でピーターケアリに会い、口論したあ

げく、銛 もり で刺し殺してるんです。でもやはり、自分のしたことに驚いて、小屋を飛び出

しましたが、そのとき、証券についてケアリに詰問するために持って来た手帳を落としま

した。ご覧になったでしょうが、ひかえてある証券のあるものにチェックがしてあって、

大部分のものにはありません。しるしのあるのが、ロンドンの市場に出たものと彼がつき

とめたやつで、他のにはついてないが、まだケアリの家にあると思い込み、父の債権者に

返済のため取り戻したいと思っていた、と口述しています。一度逃げ出してからは、しば

らく二度と近づかなかったんですが、やはりあの情報は必要で、ふたたび手に入れよう

と、今度の行動に出たんですよ。実に簡単明瞭でしょうが?」

 ホームズは笑って頭をふった。

「ホプキンズ君、たったひとつ欠陥があるように思えるんだがね。しかも本質的にあり得

ないようなことがね。君は動物の胴体なり、そんなものを銛で突き刺したことがあるか

ね? ない? いけないね。こういう細かい点にもっと注意を払うべきだよ。ワトスン君

も知っての通り、僕はこれをやってみるために、ひと朝つぶしてしまったんだよ、これは

生やさしいこっちゃない、相当の腕力と熟達を要するもんだ。この事件は銛の先が壁にめ

り込むほど、ものすごい一撃なんだよ。あんな貧血症の青年にこんな恐ろしい荒事 あらごと がで

きるとでも思ってるのかね? あの夜、黒ピーターとラム酒をくみ交したのがこの青年

だって? 凶行の二日前の晩、窓にうつったのが彼の横顔だって? いや、違うよ、ホプ

キンズ君、僕らが捜さねばならんのは、他のもっと恐ろしい男なんだよ」

 警部の顔は、ホームズの話を聞いているうちに、だんだん寸がのびてきた。その希望と

野心は、がらがらと崩 くず れ去ったのである。しかし、彼は、すぐに尻尾を巻いてしまうよ

うな男ではない、最後までホームズに食い下がった。

「しかしですね。ネリガンが凶行当夜現場にいたことは否定できませんよ。ちゃんと手帳

がありますからね。ホームズさん、あなたがいくらあら捜しなすったって、こっちには陪

審員を承服させるだけの証拠があるんですからね。それに、こっちはちゃんと犯人をあげ

てるんですよ。して、あなたのおっしゃる恐ろしい男というのは、どうしました?」

「うん、階段のあたりにいるんじゃないかな」ホームズは落ち着き払っていた。「ワトス

ン君、ピストルは手の届くところに置いといたほうがいいよ」と言って立ち上がると、側

テーブルの上に書類を置いて、「さあ、用意はできた」といった。

 外のほうで二、三どら声が聞こえたかと思うと、ハドスン夫人がドアを入って来て、バ

ジル船長をたずねて三人の男が来たと告げた。

「ひとりずつ通して下さい」

 最初に入って来たのは赫 あか ら顔で白い柔らかい頬鬚 ほおひげ のある上等リンゴのような小男で

あった。ホームズはポケットから手帳を出して、

「名前は?」

「ジェイムズランカスター」

「残念だがね、ランカスター君、もう満員なんだ。足代に半ソヴリン出すよ。ちょっとこ

の部屋へ入って待っててくれたまえ」


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