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三人の学生(1)
日期:2024-02-15 21:58  点击:267

三人の学生

 一八九五年という年に、いくつかの事件が起こり……それは話す必要もないのだが……

シャーロック・ホームズ氏と私は、わが国の有名な大学町のひとつで数週間をすごすよう

なことになったが、私がこれからお話ししようとしている、小さいながらも教訓的な事件

がわれわれの身にふりかかったのは、そのときのことだったのである。たしかに読者が大

学と犯人の名前を見分けてしまうように、細かい点を話すことは無分別であるし、不愉快

でもあろう。スキャンダルはひどく痛ましいものなのだから、そっとしておいて消えるに

まかせるのがよかろう。しかし事件そのものは、相当の分別をもってすれば書いてもよい

ものと思われる。それが、私の友人ホームズを有名にしている、あの才能のいくつかを説

明するに役だつからである。

 私はお話しするにあたって、事件をある特定の場所に限ったり、関係している人々に関

する手がかりを与えるような言い方を避けるよう努めるつもりである。

 当時、シャーロック・ホームズは、古代イギリスの勅許 ちょっきょ 状について骨の折れる調査

を続けていて、私たちはさる図書館のほど近くにある、家具つきの下宿に住んでいた。そ

の調査は、まったくすばらしい結果になったので、私が将来書くつもりでいる主題のひと

つになるかもしれない。

 さて、ある晩、私たちはセント・ルーク学寮の指導教師兼講師である、知人のヒルト

ン・ソームズ氏の訪問をうけた。ソームズ氏は背の高いやせた人で、神経質な興奮しやす

い性質 たち であった。彼はいつもそわそわしていて態度に落ち着きがないのは知っていた。

だが今日に限って彼はどうにもならないほど興奮していたので、なにかひどく異常なこと

が起こったということはたしかであった。

「ホームズさん、まことにおそれいりますが、私のために二、三時間おさきいただきたい

のですが。セント・ルーク学寮で、まったく弱った事件が起こったのです。もし運よくあ

なたがこの町にご滞在でなかったら、どうしてよいか途方にくれていたところです」

「今はあいにく、とても忙しいんですよ。気を散らされたくないんですがね」と私の友は

答えた。「警察にご相談なすってはいかがでしょう」

「いや、とんでもない、あなた。そんな方法がとれないんですよ。法律はひっぱり出した

が最後、押えておくわけにはゆきませんからね。それに大学の信用のために絶対スキャン

ダルになっては困るような事件なんです。あなたの才能同様に、あなたの思慮深さも有名

なものです。私を助けていただけるのは世界じゅうであなたをおいてありません。ホーム

ズさん、お願いですから、なんとかやって下さいませんか」

 私の友の機嫌は、ベイカー街の心にかなった環境から離れて以来よくなかった。切り抜

き帳や化学薬品や気易い乱雑さが身のまわりにないと、彼は不機嫌な男なのだ。彼は肩を

すくめて、いたしかたなく承諾したことを示した。すると、わが訪問者は非常に興奮した

身振りでやつきばやに話をしだした。

「ホームズさん、お話ししなければならないことは、明日はフォーテスク奨学生試験の第

一日目だということです。私は試験官の一人でして、試験科目はギリシア語です。試験用

紙の一枚目はギリシア語英訳の長い問題で、それは受験生が見たこともない文章です。こ

の文章は試験用紙に印刷されているのですが、受験生があらかじめ見て準備できれば当

然、非常に有利になるわけです。ですから試験用紙は非常な注意をはらって極秘にしてお

くわけです。

 今日三時ごろ、この用紙の校正刷りが印刷所から届けられました。問題はトゥキュディ

デスの一章の半分なのです。完全に本文が正しいように、私は注意して読み通さねばなり

ませんでした。四時半になってもまだ読み終りませんでした。しかし私は友人の部屋でお

茶をのむことになっていたものですから、校正刷りを机の上に出しっ放しにしておき、一

時間とほんの少しも留守にしていたでしょうか。お気づきでしょうが、私の大学のドアは

二重になっていまして、緑の粗 あら い羅紗 らしゃ をはったドアが内側にあり、外側には分厚い樫 か

し のドアがあります。

 私が外側のドアの所に来ますと、鍵が差しこんであるのを見てびっくりしました。すぐ

に私は自分で差しこんでおいたのだろうと思いました。しかしポケットに手を触れてみ

て、鍵はちゃんとあるのがわかりました。私の知る限りでは合鍵を一つだけ召使いのバニ

スターが持っているだけでしたが、彼は十年間も私の部屋の面倒をみてきた男であり、そ

の実直さはまったく疑いの余地はありませんでした。実際その鍵は彼のものだったのです

が、彼は私がお茶をのむかどうかを聞こうとして部屋に入り、不注意にも出て行くときに

忘れてしまったのだろうと思われました。私が出てから二、三分して部屋に入ったに違い

ありません。彼が鍵を忘れるうかつさなど、他の場合ならほとんど問題にはならなかった

でしょうが、まったくこんな日のことですから、嘆かわしい結果を招いてしまったので

す。

 テーブルの上を見やった瞬間、だれかが試験用紙をかきまわしたということに気づきま

した。校正刷りは長い紙が三枚、私は全部一緒にしたままにしておいたのですが、そのと

きには一枚が床の上に落ちており、一枚は窓ぎわの側テーブルの上にあり、私の置いた所

にあるのは三枚目だけでした」

 ホームズはそのときになって初めて気持をひかれた。

「第一枚目が床に、二枚目が窓のところに、三枚目が元の位置だったのですね」

「そうです、ホームズさん。驚きましたね。どうしてそれがおわかりになるんです?」

「どうぞ、その興味津々 しんしん たるお話を続けて下さい」

「ちょっとの間、私はバニスターが許しも得ないで試験用紙を見たのだろうと思いまし

た。しかし彼は真顔で強く否定しました。私はその真実なことを信じました。他に考えら

れることは通りがかりのものが、ドアに鍵の差しこんであるのを見て私の不在を知り、試

験用紙を見に入ったということです。莫大 ばくだい な金額がかかっているのです。というのは奨

学金は非常に多額なのですから、破廉恥 はれんち な男なら仲間をだしぬくためには危険も冒すで

しょうからね。

 バニスターはこの事件ですっかり動転してしまいました。試験用紙がたしかにいじりま

わされたとわかると、いまにも気絶してしまいそうでした。私はブランデーを少々与え

て、椅子に坐らせたまま、綿密に部屋を調べてみました。すぐに私は、用紙がしわくちゃ

になっているほかにも、たしかに侵入者があったという形跡をみつけました。窓ぎわの

テーブルには鉛筆をとがらせた削り屑がいくらかあり、芯 しん のかけらもひとつあったので

す。明らかに悪者は、問題を大急ぎで写しとったので鉛筆を折ってしまい、やむをえず新

しい芯を出さねばならなかったのです」



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06/27 00:43