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三人の学生(5)
日期:2024-02-15 22:00  点击:226

「さあ、ワトスン君、君はどう考える?」

 われわれが大通りに出るとホームズは言った。「ちょっとした室内遊戯だよ。三枚の

カードでする手品みたいなもんだ。ここに三人の男がいる。この中の一人が犯人に違いな

い。犯人を選ぶのですが、どれでしょう? とこんなふうじゃないかい」

「げすな言葉を使うのが四階にいるが、あれが、いちばん臭いね。だが、あのインド人も

ずるい奴だよ。どうしてずっと部屋を歩きまわってるんだろう」

「あれは何でもない。誰だって何か暗記しようとするときにはあれをするのさ」

「変な目でわれわれを見てたぜ」

「君だってもし次の日が試験で、準備に一刻でも貴重なとき、見知らぬ男どもがどやどや

と部屋に入りこんで来れば、あんなふうにするよ。いや、ありゃ何でもないね。鉛筆もナ

イフもみな申し分はない。だがあの男が僕を悩ますんだよ」

「誰だい?」

「ああ、召使いのバニスターさ。この事件であいつはどんな役目をしてるんだろう」

「僕にはまったく正直な人間ととれたがね」

「僕にもそうとれたよ、そこが悩みの種なんだ。どうして本当に正直な人間が……まあい

いよ。ここに大きな文房具屋がある。ここから捜査を始めよう」

 その町には問題になるような文房具屋は四軒しかなかった。一軒一軒、ホームズは鉛筆

の削り屑をだしては、それと同じものなら高く買ってもいいと言った。どの店でも注文な

らとりよせるが、普通のサイズの鉛筆ではないから、在庫品がないんですと言った。私の

友は失敗にがっかりした様子もみせず、肩をすくめてあきらめを示したが、半分ふざけて

いるようであった。

「うまくいかないね、ワトスン君。この最良、しかも最後に残った手がかりも何にもなら

なくなったね。だが本当はこれがなくったって充分論理は組み立てられるよ。おいおい

君、もう九時になるぜ。女将 おかみ は夕食は七時半にグリンピースがなんとやら言ってたぜ。

ワトスン君、君がひっきりなしに煙草をふかしたり、食事の時間が不規則だったりするか

ら、おそらく立退 たちの きを言い渡されるぜ。そうすりゃ、僕も転落のおすそわけにあずかる

わけだろうさ。だがわれわれは、気の小さな指導教師とうかつな召使いと三人の野心的な

学生の問題を片づけないわけにはゆかないね」

 その日、ホームズは事件については何もそれ以上ほのめかさなかった。彼は遅い夕食を

とった後、長いあいだ坐ったまま考えにふけっていた。翌朝八時に、ちょうど私が身づく

ろいを終えたとき、彼が部屋に入って来た。

「さあ、ワトスン君、セントルーク大学へ行く時間だぜ。朝飯食べなくても大丈夫か

い?」

「大丈夫だよ」

「ソームズはわれわれが何かはっきりしたことを言ってやるまでは、とてもおちおちして

いられないだろうな」

「何かはっきりしたことが言えるのかい?」

「と思うね」

「じゃ、結論を出したのかい?」

「うんそうなんだよ。怪事件は解 きあかした」

「だが、どんな新しい証拠を手に入れたんだい?」

「あはは! 僕だって無駄に六時なんていう、ときならぬ時に起きてこやしないよ。二時

間も大変な仕事をして、少なくとも五マイルは歩いたね。それで獲物として見せられるも

のが手に入ったよ。これを見たまえ!」

 彼は手を突き出した。その手のひらにはピラミッド型の黒いねり粉のような粘土が三つ

あった。

「おや! ホームズ君。昨日は二つしか持ってなかったのに」

「もう一つ今朝手に入れたのさ。これは明確な推理だよ。つまり第三のものは第一と第二

のものと同じ出どころからきたのだ。ええ、どうだい、ワトスン君。さあ行こう、そして

ソームズ君を苦しみから解き放してやろう」

 われわれが部屋に入っていったとき、言った通りに、不幸な指導教師はまったく気の毒

なほどいらいらしていた。数時間後には試験が始まる。ところが彼はまだ事実を公表すべ

きか、犯人が貴重な奨学金を争うのを傍観するかという難題にぶつかっていたのである。

彼はほとんどじっと立ってなどいられなかった。それほど心が動転してしまっていたので

ある。われわれが入って行くと、両の腕をぐっとつきだしてホームズに馳 けよって来た。

「ああ、来て下さってまったくありがたい! あなたは望みを捨てて、諦めてしまったの

かと思ってました。どうしたらいいでしょうか? 試験をやってもいいのですか」

「結構です。ぜひおやりなすって下さい」

「しかし犯人は……?」

「いや犯人は受験しません」

「じゃ、わかったのですね?」

「ええ、そう思います。もしこの事件を表向きにしたくないのなら、われわれはある権限

をもたなくてはならないんです。そしてわれわれで小さい私設軍法会議を構成するんで

す。どうぞソームズさんはそちらへ。ワトスン君、君はここへ、僕は真ん中の肘掛け椅子

に坐る。これで罪人の胸にたっぷり恐怖の念を与えることになるでしょう。ベルを鳴らし

て下さい」

 バニスターが入って来たが、われわれの裁判式な様子にはっきり驚きと恐れを見せてち

ぢみあがった。

「どうかドアをしめてくれたまえ」とホームズが言った。「さてバニスター、昨日の事件

の真実を話してくれませんかね」

 彼はさっと毛の根まで蒼白 そうはく に変じた。

「旦那様。私はあなたに全部申し上げましたが」

「何かつけ加えることはないかね?」

「何もございません」

「よろしい。では、少し暗示を与えてやらなくちゃならないね。昨日君がその椅子に腰を

おろしたとき、なにか、この部屋に誰がいたかがわかってしまうものを隠そうとして、そ

うしたのだね?」

 バニスターの顔は死人のように蒼ざめてしまった。

「いいえ……いいえ、そうではございません」

「ただ思いつきにすぎないのだよ」と、ホームズは優しく言った。「率直な話、僕にもそ

れが証拠づけられないんだよ。しかし充分ありうることだからねえ、というのはソームズ

さんが出かけるとすぐ、君は寝室に隠れていた男を逃がしたのだからね」

 バニスターは乾いた唇をなめた。


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06/26 13:41